2024年2月13日 バレンタインにラヴストーリーを!
15年後の出逢い。(ネタバレ注意)
今年も、明日はバレンタインデーというこの時期を迎え、街はにぎやかです。
最近、村上春樹著「1Q84」を読みました。
2009年5月に出版された約15年前の本です。
私は以前「風の歌を聴け」「ノルウェイの森」「ダンス・ダンス・ダンス」などを読んで、「ハルキスト」というほどではないにしても村上作品のファンでした。
そこで1995年に出版された「ねじまき鳥クロニクル」は奮発して発売直後に初版のハードカバーをドンと3冊買いそろえ、ワクワクしながら読んだのですが私にはさっぱりピンとこない作品でした。
この経験のショックは大きく、それから村上作品はどんなに評判がよくても怖くて手が出せなくなってしまいました。
近年私が読む本選びの参考にしているのは「平成の30冊」という2019(平成31)年3月7日朝日新聞の古い記事です。
平成の約30年間に出版された本の中で何がよかったかを、朝日新聞に書評を書く有識者たちにポイント制で投票してもらい上位30冊をランキングしたものです。
新聞の書評で評価が高くても、うっかり手を出すと私には荷が重い本であることも多いので鵜呑みにすることはできないのですが、このランキングなら評価がある程度一般化されていると思ったのです。
そしてそのランキングの1位が「1Q84」なのですが、10位は「ねじまき鳥クロニクル」なので油断はできません。
4位の桐野夏生著「OUT」、同じく4位の宮部みゆき著「火車」、7位のジャレド・ダイヤモンド著「銃・病原菌・鉄」は既に読了済みでどれも楽しめる本でした。
他に読みたい本がなくなるとこのランキングに戻り、未読の2位から9位までの作品を読み進め最後に残ったのが1位の村上春樹著「1Q84」で、意を決して文庫版を6冊購入し読み始めました。
勢いとスピード感のある展開のストーリーにグイグイと引っ張られて一気に読了し、大変充実した読後感で「平成の30冊」納得の第一位でした。
「騒擾:そうじょう」、「韜晦:とうかい」、「逐電:ちくでん」、などの私にとって難しい言葉は、スマホで検索しながら読めて便利でした。
今まで同じ本を二度読むことはほとんどなかったのですが、しっかり味わうために再度読み始めました。
物語は、三人の主要登場人物の視点から交互に語られる形で進行します。
以前私が読んだ村上作品の主人公「僕」は、あまり社会と関係を持たない人だったことが多かったような気がしますが、今回の三人は少し特殊な形で希薄ではあるけれど社会との関係性を持って生きている人たちなのが少し意外でした。
私にとってナルホドだったのは、「数学と文学では与えられる悦びが異質であること」、「私たちの存在を規定する遺伝子に対する考え方」、「善と悪のバランスについて」などで、今までそんな角度で考えたことがなかったので目から鱗(ウロコ)でした。
私が思っていたことを見事に言い当てて言語化してくれていて嬉しくなったのは、「新聞というメディアに対する考え方」、「希望と試練の関係性」、「睡眠中に見る夢の一類型」、「あるタイプの微笑みについて」、「宗教観」などでした。
その他にも「他者を愛することと自分を愛することの関係」、「絆と呼べるほどの強い結びつきを作ることの難しさ」、「生命の繋がり」、「人生と希望の関係性」、「人生の成り立ちと帰結」など考えさせられるテーマがてんこ盛りでした。
私は、物語の中で提示された謎が解決されないままになるのはあまり好きではありません。
村上作品は往々にしてそれがあるのですが、物語の中で登場人物により作者の意図するところが主張されていると思われるところがあり、納得できるものだったのでそれもナルホドだったし流石だなと思いました。
物語の中にたくさんの本、映画、音楽が登場したのもとてもよかったです。
中でも音楽はクラシックと古いジャズが中心で、クラシックのテーマ曲ともいえるのは冒頭から何度も登場するヤナーチェックの「シンフォニエッタ」でした。
私はこの曲を知りませんでしたが youtube で聴いてみたらなかなかよかったので、天吾が聴いていて先日訃報が流れた小澤征爾指揮のシカゴ交響楽団盤と、青豆が聴いていたジョージ・セル指揮のクリーブランド管弦楽団盤のCDを購入し聴き比べてみました。
どちらもいいのですがどちらかというと私の好みは、録音条件の違いかもしれないのですが一つ一つの音が際立っているように感じたジョージ・セル指揮のクリーブランド管弦楽団盤でした。
クラシックはその他にもバッハの「平均律クラヴィーア曲集」、「マタイ受難曲」、シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」など多数登場するので全部集めるのは大変だなあと思っていたら、「小説に出てくるクラシック1・2」という企画のコンピレーション・アルバムのCDが出ていて「1Q84」に出ているクラシックはほぼ収録されているので中古を購入しました。
シベリウスのヴァイオリンは、作中で指摘されているダヴィッド・オイストラフという凝りようで嬉しくなってしまいました。
古いジャズのテーマ曲は「イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン」でその歌詞の一部が第1巻の扉にも取り上げられていて、物語のテーマともリンクします。
この曲と作中に登場する「スウィート・ロレイン」の両方が収録されていたので、ナット・キング・コールのベスト盤にしました。
ジャズはその他にもデューク・エリントン、ビリー・ホリデイなどが登場します。
作中ではLP盤ですが私が聴くならCDなのでとりあえずベスト盤でいくことにしましたが、特に詳細に解説されているルイ・アームストロングは「プレイズ・W.C.ハンディー」という同じアルバムを購入しました。
古いロックではローリングストーンズが登場するので購入して聴いてみました。
クラシック・ジャズ・ロック共に今まで私にはなじみの薄いタイプの音楽でしたがどれもいいです。
ほぼ音楽がそろったので、これらの音楽を聴きながら三回目を読み始めようかなと思っています。
私は音楽好きですがたくさんある好きな曲だけを繰り返し聴く「わがままプレイリスト派」だったのですが、音楽的嗜好に幅ができたように思います。
簡単な料理を作るシーンも何回かあり、普段料理をすることのない私が「海老とマッシュルームとセロリの炒め物」を一度は作ってみようと思っています。
いつも何かしらは読んでいるので本から影響を受けることはありますが、一つの作品から私がこんなに多くの影響を受けることは珍しいです。
あんなに警戒していた村上作品から,こんなことになるとは思ってもみませんでした。
きっとこの作品を受け入れるのに遠回りが必要で、15年かかってその分少し成長した私がやっと作品に追いついたということなのでしょう。
出逢えてよかったです。
「1Q84」は一言で言い表すことのできない作品です。
サスペンス・ファンタジー・超常現象などの要素がありますが、ジャンル分けするとしたら「村上作品」としか言いようがありません。
それでもラヴストーリーであることは間違いないと思います。
今更過ぎますが、愛や人を想う気持ちに思いを致すバレンタインデーにぴったりな、ひねりの利いた大人のラヴストーリーはいかがでしょうか。