年輪年代法の基礎データは開示されるのか？

　今回は古代史関連のニュースから―――

　以前から古代史の界隈でよく話題になっていたいわゆる「年輪年代法の闇」に関する話です。

　遺跡からの出土物などの年代特定に大きな影響力を持つ「年輪年代法」の基礎データがブラックボックス化していると以前から取り沙汰されていましたが、１月３１日、日本古代史ネットワークという団体が、昨年開示を求めて不開示とされた決定を取り消すように訴訟をおこしたという記事です。

【産經新聞（sankei.com）の記事より】

奈文研の「年輪年代法」データ不開示、市民団体が提訴

　遺跡や建築物に用いられた木材の年輪幅から伐採年を特定する「年輪年代法」をめぐり、この測定法を日本で確立した奈良文化財研究所（奈文研、奈良市）を運営する独立行政法人「国立文化財機構」（東京）が市民団体の情報公開請求に対し年輪幅の基礎データを不開示としたのは不当として、市民団体側が３１日、同機構を相手取り、不開示決定の取り消しを求める訴えを東京地裁に起こした。

　奈文研のウェブサイトによると、奈文研は、ヒノキとスギの約３０００年分の年ごとの年輪幅が分かる「暦年標準パターン」を作成。原告の市民団体「日本古代史ネットワーク」（東京）は昨年７月、同パターンの作成に用いられた基礎データの公開を求めたが「調査研究の公正かつ能率的な遂行を不当に阻害する恐れがある」として不開示の決定を受けた。

　原告側は、法隆寺五重塔の心柱（しんばしら）など年輪年代法で推定された建築物１５件の木材の伐採年が文献上の記録と比べて１００年以上古く、飛鳥時代以前の基礎データが誤っている可能性があると指摘。「（誤っていれば）古代史の年表が全部ずれる形になる。データを公開し第三者が検証できるようにすべきだ」と訴えている。

　国立文化財機構は「提訴の事実を含めて確認中であり、現段階ではコメントいたしかねる」としている。

　以前にもこのブログで書いたことがありますが、

　年輪年代法の方法論自体は非常に明快で、確立されれば古代史解明に素晴らしい成果がもたらされるものだと思っています。

　それは、極論すればですが、出土した樹木がＡＤ（またはＢＣ）何年に発芽し、何年に伐採された（あるいは枯死した）のかが１年単位で特定できるようになるからです。

　しかし問題は、出来上がった「暦年標準パターン」が本当に正しいのかどうか検証しようにも、その基礎となったデータが開示されていなかったことにあります。

　「暦年標準パターン」の信頼性を高めるためには、その基礎データを公開して他の研究者（第三者）による追検証をうけることが最低限必要なのだろうと、個人的にはそう思っています。

　この「暦年標準パターン」は、もうひとつの有力な年代測定法である「炭素１４年代測定法（Ｃ１４年代測定法）」における較正曲線の作成にも用いられているといわれています。そして、Ｃ１４年代測定法はＣ１４の測定精度がどれほど高まろうとも、それを正しく較正しなければ正しい年代は求められないという特性を持っています。

　Ｃ１４年代測定による遺物の測定結果はよく目にすることがあると思います。もしその較正曲線に誤りがあるとしたら、それらすべてが誤った年代を示していることになってしまうのです。

　たとえば、数年前に話題になりました纏向遺跡の桃の種の年代も変わってくるということになります。

➡以前の記事「邪馬台国畿内説の都・纒向遺跡から出土した桃の種の年代報道について」

　今回の件については、様々な人々の様々な思惑が渦巻いているのだと思いますが、古代史の真実を知りたい者のひとりとしては、どのような形であれすべての研究者の方が信頼して用いることのできる「暦年標準パターン」が作られ、それを活用した正しい年代観が私たちに伝えらえるようになることを願っています。

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