ピンクのポンポン★80(80-96)
※阪神・淡路大震災を源とする物語(フィクション)です
尚、ピンクのポンポンの時計は、今も去年の夏の代々木体育館で止まったままなので、登場人物が過去の出来事を考える時、1年の時差が生じますので、ご了承下さい。
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体育館の入り口の扉が閉まる音が聞こえて間もなく、遠くの方から男性の大きな声が聞こえた。
「またかあ、うるせえなぁ」
すると今度は女性の声が聞こえた。
「あんたの声の方が、よっぽど迷惑やわ。静かに、しいな!」
「うるせぇ!」
「あんたの方がうるさいわ!」
そこで、会話が途切れたと思ったら、足音が聞こえた。恐くなって、母の方に上体を寄せていたら、年輩の女性が歩いて来る姿が見えた。でも、とても怖い顔をしていたので、ますます、恐怖が増して、母のジャンパーを両手で掴んだ。
その女性は私達の傍まで来ると、しゃがみ込んで言った。
「ごめんなぁ、ウチとこの、おっちゃんが八つ当たりして。地震の時は何とか踏んばっとった家が、次の日に、火事で燃えてしもて落ち込んどったんが、今度は苛々しとんや。おばちゃんかて、辛いんやで……」
そう言うと、彼女は大きな声を上げて泣き始めた。
母は妹を抱きしめたままの姿勢で言った。
「ウチも同じです。地震のあった日の夕方、燃えました」
「……。そう、同じやなぁ、辛いなぁ…… 皆、助かったんか?」
「主人の母が亡くなりました」
「そうかぁ…… ここで仲良うしとったおばあちゃんも死んだもんな…… あんたらも辛かったなぁ」
そう言うと、彼女は私の頭を撫でた後、そのまま床につっぷして泣き続けた。