ピンクのポンポン★80(80-32)
※阪神・淡路大震災を源とする物語(フィクション)です
尚、ピンクのポンポンの時計は、今も去年の夏の代々木体育館で止まったままなので、登場人物が過去の出来事を考える時、1年の時差が生じますので、ご了承下さい。
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体育館と教室を二往復した母が、やっと荷物を運び終えると、
「あんなに、ようさん(たくさん)?」
「ウチとこ、何も持ち出せへんかった」
「邪魔やなぁ」等、いろんな声が聞こえてきた。
勿論、私と妹が買って貰ったばかりの帽子とマフラーと手袋を着けていたことを見た人達からは、
「旅行気分やな」と言った人達まで居たので、母が帽子やマフラーを外させようとしたけれど、妹が頑なに嫌がるの見たお隣のお婆ちゃんが、
「気にせんでええ。皆、自分と同じやないと気が済まへんだけやん。服なんて決まっとらへんで」と言い、困った顔をした母を宥めた。
「ありがとうございます」と母がお礼を言うと、
「関東からお嫁に来たんかいな。えらい(大変)目に遭うたね」と言い、私や妹に向けたのと同じ笑顔を私達に向けてくれた。
母は気持ちが緩んでしまったのか、目に涙を浮かべた。そしてハンカチで涙を拭いた後、突然、何かを思い出したように、ジャンパーのファスナーを開くと、胸の内側のポケットに手を入れて、そこから何かを掴み出した。そして、左手で私の右手を握ると、掌に何か小さな物を握らせてくれてから言った。
「フイルム、無事だったわよ」