今年の1月に、初めてアイゼンを装着して、八ヶ岳の北横岳で雪山登山デビューを果たした。



登山自体そうかもしれないが、雪山にも一種の中毒性があるように思う。


北横岳で雪山中毒となった僕は、その後もコンスタントに少しずつレベルを上げながら、雪山登山を楽しんできた。


1月に初めて北横岳にロープウェイを使って登った初心者丸出しの僕にとって、ややハード目の登山となるであろう残雪期の乗鞍岳。



三本滝駐車場までのアクセスが可能になったこのタイミングでトライすることに。今回は乗鞍高原の宿で前泊してからの山行なので朝はゆったり。



実際に行って驚いたのは、BCスキーを楽しむ人の多さだ。ざっと8割くらいはスキーの人だったように思う。


僕は雪山登山を除けば、ウインタースポーツとは無縁の人間。


息子がやってみたいと言うので、一昨年に軽井沢のプリンススキー場で、家族3人揃って人生初のスキー板を履いて初心者レッスンを受けたが、僕の運動神経ではリスクが高過ぎると思い、それっきり。



息子も一度やってみて満足したらしく、その後は雪遊びができれば十分というスタンスなので、今後も僕がスキー板を履くことはないだろう。


そういう感じなので、僕からすれば、乗鞍岳の山頂から颯爽とスキーで滑ってくるBCスキーヤーは、もはや全員が超人に見える。


そんな超人だらけの乗鞍岳を僕はいつものように12本爪のアイゼンでてくてくと登ることに。



スタートとゴールは三本滝駐車場。驚いたのは僕が到着した5:40時点で駐車場がほとんど埋まりかけていたことだ。しかもその大半がスキー板の超人たち。



スタートしてから最初のうちはスキー場を歩いていくのだが、いきなりまあまあの急登だ。



この辺は道路も除雪が進んでいるので、道路を横切ったりしながら少しずつ標高を上げていく。



初めのうちは樹林帯の間を進んでいく。頭ではコースタイムを理解していても、たまに見える剣ヶ峰があまりにも遠く感じてしまい心が折れかける。



何とか折れずに進んでいくと、徐々に木々が目立たなくなってくる。



そうなると今度はどういったルート取りをしようかという話になるのだが、これが意外と難しい。



本当は傾斜の緩やかな方を登って稜線に出てから剣ヶ峰を目指そうと思っていたのだが、先行者がいたのと、トレースが歩きやすそうだったので、剣ヶ峰へ直登するルートに導かれてしまった。


途中で、これって剣ヶ峰へ直登する傾斜がかなり急なルートだよなと気付いたのだが、そこから軌道修正するのも大変なので、そのまま勢いで登ってしまうことに。


この判断はいま考えると反省点だ。傾斜が急な方が雪崩のリスクや滑落のリスクは高まるわけで、それよりリスクが低いルートがあるのに、それを選択できなかった迂闊さ、そしてそれに気付いた時に働いた正常性バイアス。



近くに3人くらいのパーティーとソロ登山者が歩いていたことも、この正常性バイアスを強めた要因だ。まあ、他にも登山者いるし、大丈夫だろうという心境。


冷静に考えれば、他の登山者が近くにいるから安全なんてことは全くないはずだし、トレースだって僕みたいなルートファインディング能力低めの人がつけたトレースかもしれない。


何事もなかったので、結果オーライではあるのだが、こういう些細なことが遭難のリスクを高めるんだろうなと下山してから大反省。


しかし、歩いている時には反省よりも何よりも、とにかく強風との闘いに必死であった。



幸いトレースがしっかりしていて、しかも綺麗なステップがついていたので、急登ながらも非常に歩きやすかったのだが、遮るものがない雪原の中で吹く強風には随分と手こずった。


この日は登り始めからとにかく暑かったので、ウエアはミドルレイヤー、グローブはウールの手袋の上にレイングローブだけをつけて歩いていた。



天気予報で午前のうちは風が強いとわかっていたので、さすがに樹林帯を抜けるところで、その後のことを考えてハードシェルを着込んだのだが、グローブはそのままだった。


手はポカポカしていたし、こちらは問題ないだろうと思ったのだ。



これが大誤算。強風の中で歩いていると、段々と手の冷えを感じるようになってきた。最初のうちは我慢できるかなと思ったし、こんな急登と強風の中で、ザックをおろしてグローブを取り出したりするのは避けたいと思った。


しかし、どうにも我慢できないほど冷えてきたので、急登の途中という非常に中途半端な場所で、容赦なく吹きつける風の中、意を決してアルパイングローブを装着することに。


ザックをから取り出す時に手が滑ってザックを落としたりしたら目も当てられない。慎重にザックからグローブを出して、絶対に落とさないように装着する。


その間も容赦なく強風が僕の身体に叩きつけてくる。普段ならスムーズに装着できるグローブも、こういう条件下で装着するのがこんなにも大変なことなのかと勉強になった。


そもそも樹林帯を抜ける前、ハードシェルを着込んだタイミングで、アルパイングローブも出しておけばよかったと反省。暑ければしばらくはグローブ自体は装着せずに、ストラップで手首につけておけばよかっただけなのだ。


そんな具合でかなり苦労しつつも、手の保温を確実にした上で剣ヶ峰を目指す。



風も強いので、とにかく焦らずに一歩一歩、時には耐風姿勢をとりながらの登りはなかなかしんどかったが、結果から見れば思ったより少し早いくらいの時間で剣ヶ峰に到達。



色々とあったが、何とか無事に雪山シーズン初の3,000m峰の頂に辿り着くことができた。




山頂からは南側に立派な御嶽山を望むことができる。いつ観ても絵になる山だ。



北側には穂高連峰をはじめとする北アルプスの雄大な絶景が広がっている。


この日は風は強かったが、とにかく快晴で、景色という意味では言う事なしの素晴らしい天気であった。


残念だったのはiPhoneのレンズに少し水滴がついていたようで、せっかく撮影した絶景の写真にレンズの水滴が映ってしまったことだ。。。


あと、いま考えると赤面してしまうような話も。



初心者丸出しの僕は、北アルプス方面で尖っている山を槍ヶ岳と勘違いしてしまい、「槍、カッコいー!」なんて思いながら、写真を撮りまくっていた。



そしてその写真をYAMAPの登山記録でも掲載したのだが、ある方から丁寧なコメントをいただき、僕が槍ヶ岳と思った山が、実は前穂高岳であったことが判明。確かに、右から前穂高岳、吊尾根、奥穂高岳だ。



「槍、カッコいー!」という気持ちで、写真を撮りまくる自分の姿を思い出し、何とも滑稽な姿で笑えてくるとともに、それをYAMAPで堂々と槍ヶ岳として載せてる自分にもはや赤面するしかない状況である。



残っている写真の構図が、その「とんがり」を槍ヶ岳と信じて疑わなかった僕を笑えるほどに表している。


前穂高岳を眺めながら、「この夏は必ず登るから待ってろよ、槍ヶ岳!」なんてことを心の中で思っていたわけだから何とも可笑しい。


こんな無知な僕に、丁寧に教えてくださった方には本当に感謝である。



そして、風と闘いながらも山頂からの絶景を堪能した後は、下山開始である。


いま考えればいったん朝日岳方面へと稜線を下ってから下山すればよかったのだが、登ってきた道の方が感覚を掴めてるかなと思い、剣ヶ峰からそのまま急斜面を下山。



なかなかの急斜面でかなり慎重に歩くことを求められたが、この時は木曽駒ヶ岳の八丁坂での経験が非常に役に立った。



八丁坂の急な下りと比べればマシだなという感覚を持って歩けたので、とても落ち着いて一歩ずつ歩みを進めることができた。やはり経験というのは大きいなと実感。


そして初の雪山3,000m峰での初体験がもう一つ。風が強くてスマホを取り出す余裕がなく写真が残っていないのが残念だが、人生で初めてのライチョウとの遭遇を果たすことができたのだ。


僕に気付いているのかいないのか、特に慌てて逃げるような様子もなく、マイペースでヒョコヒョコと歩いている白い毛のライチョウ。


初めてライチョウと遭遇したことで、僕も北アルプスハイカーの末席に加えてもらえたような何とも嬉しい気分であった。



ライチョウとの出逢いの後、少しずつ傾斜も緩んできて、緊張感のある下りからは解放される。



この辺からは周囲の安全を確認しつつ、お尻で雪の上を滑り降りたりして所々で時短を図る。お尻で滑ってみたのも人生で初。


木曽駒ヶ岳で滑っている人を見かけたのだが、僕はちょっと怖いなという感覚があったので、その時はやめておいたのだ。


しかし、乗鞍岳は傾斜がそこまで急なところでなければ大丈夫と感じたので、試しに滑ってみたところ、かなり軽快に降ることができたので、細心の注意を払いつつ、ちょこちょこ滑りながらの下山となった。


(わかりにくいが、滑り降りた跡)


下山時にお尻で滑って時短したこともあり、予定よりも早めに下山することができた。



色々と反省も多かった残雪期の乗鞍岳。改めて総括はしたいと思うが、僕にとって雪山デビューとなった今シーズンの締めくくりに相応しい充実した学びのある山行となったということにしておきたい。