(前回の様子はこちら)


非常に達成感のあった冬の木曽駒ヶ岳への登頂だが、最後に一つ考えておきたいことがある。

 

 

冬山登山について特集する雑誌の記事やインターネット情報などで、比較的手軽に登れる冬山として紹介されることの多い木曽駒ヶ岳。

 

 

初心者でもチャレンジできる!とか、手軽に登れる3,000m級の冬山!など紹介の仕方は様々だが、全体としては敷居を低めに設定しているような論調が目立つ気がする。

 

 

そこで今回は冬山登山初心者の僕から見て、実際にどうだったのか?を整理することで、総括に代えたいと思う。

 

 

まず体力面から言えば、確かにハードルは低いといって良いだろう。4km弱の歩行距離と500m程度の累計標高差ということで、冬山とは言え、体力的な負荷は明らかに低いと思う。

 

 

では、山のコンディションや技術面という観点からはどうだろうか。

 

 

まず千畳敷カールは典型的な雪崩地形であるということ。したがって、登山する日の天気だけを見ていては危険だ。1週間程度前からの降雪状況や気温の変化など気を配った上で、登山の可否判断をするのが正しい対応だと思う。

 

まあ、天候チェックの重要性は登山全般に言えるわけだが、雪崩リスクが高い地形での冬山登山の場合はより重要性が高まってくる。

 

 

次に歩行技術ということで言えば、やはり八丁坂の歩行が大きなポイントになるだろう。

 

 

アイゼンで急斜面を登り降りする技術、ピッケルを正しく使う技術、いざという時の滑落停止技術など、そういった基本を身につけておかないと、グンとリスクが高まるのは間違いない。また、ストックで登っている人も見かけたが、個人的にはピッケル必須だと思った。

 

 

あとは稜線に出てからの行動。厄介なのは風だ。僕が登った日は暑さを感じる日であったが、やはり風が吹くと寒いし、できるだけ皮膚を出したくないと感じたので途中でバラクラバを装着した。

 

そういった意味でも、冬山装備の重要性。稜線はかなりの風が吹くという想定での装備を考えておかなければならない。

 

 

また、乗越浄土から中岳を経て木曽駒ヶ岳に至る登山道は、比較的なだらかで開けている感じなので、天気が良ければ問題ないが荒天となった場合のホワイトアウトのリスクは想定しておく必要があるだろう。

 

 

以上を総合すると、決して初級レベルの山とは言えないような気がする。冬山登山の基礎を身につけておかないと安全に登山をするのは難しいだろう。

 

例えば、僕が冬山デビューしてすぐに登った北横岳や黒斑山は、そういった技術や装備が多少甘くても、天気がよほど酷いことにならなければ問題なく登れるレベルの山だと感じたが、そういった山とは完全に一線を画すレベルだ。

 

(PEAKS 2019年12月号より引用)

 

ただ、こういった感覚に対して、例えば登山雑誌PEAKSでは、「もっとも容易に登れる3,000m級冬山」とか「冬のアルプスを歩く、本格的雪山登山の入門コース」といった感じで紹介されている。

 

(PEAKS 2020年12月号より引用)

 

インターネット上でもそれに近いニュアンスで紹介されているのをよく見かける。かなり敷居が低いと感じる表現が多い。


上記の表現も、一応「本格的」という枕詞をつけているものの、やはりその後の「入門」という言葉の方がインパクト強めに見えてしまう。


(山と渓谷 2021年2月号より引用)

 

(山と渓谷 2021年2月号より引用)


一方、山と渓谷では一貫して中級レベルの山と位置付けているようだ。2021年12月号の特集記事では「確かな技術と知識を学びながら、3,000m級の銀世界」へというタイトルで「日帰りで手軽に登れる本格雪山として人気のある木曽駒ヶ岳だが、雪崩や強風などのリスクがあり、技術的難度は高い。」と書いてある。


さっきのPEAKSは、最初に「本格的」としつつも最後は「入門」と結んでいたのに対し、山と渓谷は、最初に「手軽に」という表現を入れつつも、それはあくまで世間の評価であるというニュアンスを明確にして、最後は「技術的難度は高い」で締め括っている。似ているようで大きな違いだ。


PEAKSも「雪山の入門」ではなく「『本格的』雪山の入門」としているわけなので、その意味ではちゃんと考えているんだろうけど、パッと読んだ印象では「入門」が強調されるように思う。

 

(山と渓谷 2020年12月号より引用)

 

山と渓谷では、主要な雪山をグレーディングしたチャートでも、技術的難易度は中級レベルに設定されており、決して甘く見るような山じゃないということが明確に示されている。

 

(山と渓谷 2021年12月号より引用)

 

実際に冬山初心者として木曽駒ヶ岳に登ってみた僕の感覚もこれに近い感じだ。もちろん、雪山はその時々の雪のコンディションや天候によって難易度が変わるので一概には言えないが、絶好のコンディションだったとしても「初級」とか「入門」ってことはないと思った。

 

 

冬の木曽駒ヶ岳を冬山の入門と位置付けるのはミスリーディングの危険が高いと言うべきだろう。そういった情報でリスクの高い登山をしている人も一定数いるような気がしてならない。

 

 

ロープウェイのおかげでアクセスが容易で、体力的には随分と楽をできるというのも、入門コースっぽい空気を出すのに一役買っているのかもしれない。

 

 

実際に登った僕としては「冬山初心者でも、きちんと基礎を身につければ挑戦可能な中級レベルの山」として木曽駒ヶ岳を位置付けたい。

 

 

ロープウェイによるアクセスの容易さ、歩行距離、累計標高差いずれも体力的には楽な部類に入ること、人気の山で登山者が多いことなどが、冬山初心者の挑戦を後押ししてくれるわけだが、あくまでも天候に恵まれていること、かつ基礎技術をある程度習得していることが前提条件となることを強調しておきたい。


僕も2月に受講したアイゼン歩行とピッケルの使い方に関する講習が随分と役に立った。これを受けていなかったら、精神的に余裕のない山行になっていたような気がする。

 

 

というわけで、僕なりに冬山初心者にとっての冬の木曽駒ヶ岳を総括してみた。まさに初心者である僕が、ある程度の基礎を身につけた上で、ほんのちょっとだけストレッチして挑戦した本格的な冬山。だからこそ、とても達成感のある山行になったのだと思う。

 

これからも自分なりにリスクマネジメントできる範囲の中で、楽しく冬山にトライしていきたいと思う。