広響特別定期演奏会 アルゲリッチを迎えて | 私のピアノライフ  with classical music

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ピアノ練習、コンサート等で感じたことを気ままに語っていきます。

5月12日(日)、雨がじゃじゃぶりの広島へ行ってきました。

目的は、広響の定期演奏会にアルゲリッチが出演するのを聴くため。

雨のため、事前の計画をたびたび変更。

会場となる広島文化学園HBGホールは去年の夏、行ったので、到着できない!という不安はなかったのですが、雨が断続的に降っていたので、ちょっと大変でした。

平和記念資料館から歩いたのですが、ひょっとしたら、都合の良いバスがあったのかもしれません。観光用のバスはホールに行かないし、路線バスのルートはよくわからない。

 

ホールに着いた時は、かなり服も濡れてしまいました。

 

ホールは2千人収容の大きなホール。

広響の特別定期演奏会。何が特別かと言うと言うまでもなくアルゲリッチをソリストとして迎えているから。

この演奏会、いつもより高い価格設定なのに、満席。隣に、広響をよく聴きに来られている方が見えましたが、いつもこんなに人は入っていないそうです。

たぶん、アルゲリッチを聴くために私のように遠征した人がたくさんいたんでしょうね。

 

【プログラム】

アレクサンドル・ゴノボリン:弦楽のためのアダージョ(日本初演)

マーラー:交響曲第10番嬰へ長調「アダージョ」

 

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番ハ長調

 

指揮/クリスティアン・アルミンク  ピアノ/マルタ・アルゲリッチ 

管弦楽/広島交響楽団 

 

チラシに「ウクライナに捧げる、祈りのアダージョ」という言葉があるように、アレクサンドル・ゴノボリンとプロコフィエフはウクライナ出身なんだそうです。前半の2曲は、美しくも悲し気。聴いたことのない曲で、なおかつ斬新な音使いや複雑な構成の曲はなかなかついていくのが大変。演奏はたぶん良かったのですが、どうしてもウトウトすることが多くて、この時間は眠いからか、午前中の移動、観光の疲れかしらと、もやもやしながら、音楽に身を任せていました。

 

後半、アルゲリッチ登場。前半の拍手の2倍の音量の拍手が会場に響き渡ります。この日、2階の中央寄りの席でオケ全体を見渡せ、アルゲリッチの弾く姿もほぼ正面で捉えられる良い席でした。

だいたい、メインがプロコフィエフのピアノ協奏曲って不思議なプログラムですが、この日の主役はアルゲリッチだから当然と言えるかもしれません。

 

アルゲリッチ、ピアノの椅子に座り弾き始める前に(座る前かも?)ハンカチをピアノにポンと投げ入れました。

オケの音楽から始まり、しばらくしてからピアノが入るのですが、最初の一音から生きのいい音。

相変わらずパワフル、そして速めのテンポで曲は流れます。

普通、年老いた演奏家は、テクニックにかげりが見え、音がもやっとしたり、ミスタッチが増えたりする人が多いのですが、アルゲリッチは若い時となんら変わらない超絶技巧で弾きまくります。そして、音の線がクリアー。超絶技巧なのに、それをひけらかす感じは全くなく、速いテンポがとてもスリリングで聴いている方のテンションも上がります。

低音部の力強さもかっこいい。力強くたたいているように見えてもフォルテの音が決して不快な音にならない。

緩楽章の歌わせるところの表現も見事。世間のピアニストの中にはわざとらしい歌わせ方をする人がけっこういますが、アルゲリッチの歌はとても自然でこの上なく美しい。とろけるような音色は、天にも昇る気持ちになります。

アルゲリッチは自由に弾いているようでいて、オケとのアンサンブルも見事。要所、要所、ぴたっと合わせますし、オケとの対話も美しい。

3楽章の最後の部分も、恐ろしいほどの速さで駆け抜け、それが完璧なテクニックで弾かれる凄さ!

終わった瞬間、ブラヴォーの声があちこちから、聞こえてきます。

隣の席の方が、「あっという間に終わってしまう。」と休憩時間に言っていましたが、ほんと、あっという間でした。

前半のオケの曲は長く感じたのに、プロコフィエフのコンチェルトはあっと言う間でした。

 

会場中、熱気にあふれ、盛大どころか壮大な拍手で満ちていました。

花束を持って、舞台下に駆けつけた人が数名。その花をアルゲリッチは受け取った後、何人かの楽団員の方に、花を1本ずつ抜き取って渡していました。久しぶりに、この風景見ました。

30年以上前は、花束を渡す人で列ができていたコンサート、よくありましたね。

 

何回かカーテンコールした後、アンコール。

 

最初、シューマンの「夢のもつれ(幻想小曲集より)」。時々、アルゲリッチ、演奏する曲ですね。猛烈な速さで、指のもつれになりそうな曲を軽々と弾いていました。

 

これで終わるかなと思ったのですが、カーテンコールの後、再度、ピアノの椅子に座り、2曲目のアンコール。

バッハの「ガヴォット(イギリス組曲より)」。帰宅してから、10代の頃、弾いたはずだと楽譜を広げ、弾いて見ました。私が弾くとちっとも素敵な曲にならないではないか。アルゲリッチはこのガヴォットをよく弾くが、滅茶苦茶、素敵な音楽に仕立て上げる。配信で聴いても、いつもいいなと思う。生で聴けて最高!でした。

 

今日はここまでで、いい演奏会だったなと会場の人はみんなそういう気持ちだったと思う。ところが、カーテンコールが続く中、指揮者のアルミンクもアルゲリッチと一緒に登場。指揮台に立ち、「3楽章」と日本語で楽団員に告げます。なんと、3楽章をもう一度、演奏してくれる!

2回目の3楽章は、アルゲリッチ、ますます音の鳴りが良かったと思う。

終わった瞬間、会場は、総立ち。雰囲気は、ロックコンサートのような熱気(ロックコンサート、行ったことがないけど)。

何もかもが凄すぎ!凄すぎて涙が出る。

配信でアルゲリッチの演奏の後、みんな笑顔でスタオベしているのがなぜだかわからなかったけど、今はよくわかります。

人類ができる最高のパフォーマンス。

 

アルゲリッチは、今82才。来月には83才になられます。80才を過ぎた人が超絶技巧を維持している驚き!

そしてパワフル。

 

年だなんて、言ってはいけないですね。それにしても先月はコバケン、今月はアルゲリッチとパワフル80代に元気をもらいました。

 

今回の演奏会、娘の後押しで行くことにしました。アルゲリッチのコンチェルトを聴く機会はそうそうないですから。隣の方もアルゲリッチの年を考えると聴いとかなきゃと思うと同時に、自分自身がいつ演奏会に行けなくなるかもしれないとも思うと言っていました。

ほんと、行って良かったです。