2014【トヨタ・ノア/ヴォクシー 3rd】 | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

2014【トヨタ・ノア/ヴォクシー 3rd】




まず最初に、読んで!
『CarSensorNet掲載の本編はこちら』





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以前、仕事で知り合ったある人が、エ
ニアグラムを使った性格診断について
話してくれたことがあります。エニア
グラムというのは、正しくは9つの頂
点を持つ星型のような図形のことです
が、性格診断によく使われるので、き
っと見たことがあると思います。カッ
としやすい、涙もろい、などといった
いくつかの質問に、例えば5段階の自
己診断を加えてエニアグラムの上に座
標点を打ち、それらを直線でつなぐと
いびつな星型ができあがる、アレです。

その人は、日本ではエニアグラムの性
格診断の結果が円形に近いことが良と
されること、また皆そういう自分を目
指そうとすること、の無意味を教えて
くれました。すなわち、例えば決断の
早い人は熟考する傾向が弱い、調和を
大切にする人は独創的な結果を導き出
すのが苦手というように、あっち立て
ればこっち立たずなわけだから、完璧
な円が描ける人間なんていない、と。
もし描けたとしたら、それはすべてが
中くらいのこぢんまりとした円になっ
てしまう。イビツであることが人間の
証明であり、それこそが魅力なんだと。


クルマにおいても、それは同じように
思います。そのクルマが本当に目指す
姿は、なんなのか。そこがブレてしま
うと、とてもつまらないクルマになっ
てしまいます。そして目標を個性とい
う領域にまで高めるためには、向かう
べきベクトルの反対側にある価値を大
胆に切り取ることがとても重要なので
す。

ノア/ヴォクシーの目指す姿は、走る
日本の台所という価値にあるのではな
いかと思うという話を本編でしました。
本当の台所にある様々な機能が、最新
の技術でどんどん進化しているように、
走る台所の機能も相当に進化しました。
ひと昔前までは、まるで使い物になら
なかった“おまかせ”機能も、けっこ
ういい線いくようになって、複雑なこ
とをスイッチ1つで統合的に稼動させ
ながら、おおよそ想定どおりの結果を
提供してくれるまでに進化しました。
まるでボタンひとつでコーヒーを適温
に温めてくれる電子レンジのようです。
もはや温め時間を考えてセットしなく
ても、コーヒーが沸騰するようなこと
はなくなったわけです。

そんな素敵な空間に成長したノア/ヴ
ォクシーに、さらに求めることがある
とすれば、2つのことをあげてみたい
と思います。

1つは、これ以上スポーティな走行フ
ィールを追求しないでほしいというこ
とです。

高速道路の追い越し車線を猛スピード
で疾走していくノア/ヴォクシーの後
ろ姿を見るたびに、とても怖い気持ち
になります。神様が定めた自然の摂理
は、誰にも越えることができません。
身長を超えるような車高と5ナンバー
サイズの狭い車幅の組み合わせは、車
幅に対して車高の割合が小さなセダン
のような形状のクルマに対して、転倒
する危険性がずっと高いのです。猛ス
ピードで走ることによって、その危険
度はぐんと高まります。

もちろんメーカーも、そのような事態
に陥りにくいように対策をしてくるわ
けですが、常識的な価格で販売しなけ
ればならないという前提の中でできる
ことといえば、サスペンション硬く引
き締めてゆくことが主になります。上
屋を軽量なカーボン製にして相対的に
重心を下げる、なんてことはコスト的
に現実的ではありませんからね。もっ
と安価な複合素材では、という意見も
あるかと思いますが、それでは安全性
がまるで確保できなくなるでしょう。

クルマの開発は、超えることのできな
い神様の摂理の範疇で行わなくてはな
りません。そして目的に特化した心地
を実現するというベクトルをぶれるこ
となく貫くことが、それぞれの性格を
持ったそれぞれのクルマを求める人た
ちにとっての最高のクルマを完成させ
るのだと思っています。ノア/ヴォク
シーは、幸せな家族のための動く台所
です。高速道路を猛スピードで疾走す
ることを求めるクルマではありません
し、そのようなことで神様の摂理を越
えた向こう側にいる悪魔の領域に肉薄
させるようなことはもっとも避けなけ
ればならないことです。

もっとパワーを落としてもいいと思い
ます。その分、サスペンションももっ
と柔らかく設定できるでしょう。町中
の加速不足は、ギア比を変更すれば対
処できるはずです。結果として、少し
燃費が悪くなるかもしれません。けれ
どもカタログに示さなくてはならない
その燃費の数字に込められた意味を知
れば、それはノア/ヴォクシーを必要
とする多くの人にとって、十分に納得
のゆく事柄になるでしょうし、むしろ
誇りを持って選択するひとつの材料に
さえなると思うのです。

相反する事象を共に10点対10点にする
ことは不可能なんです。もし既存で10
点を示す座標が5点になるような一回
り大きなエニアグラムを描けば、見か
け上5点対5点にバランスさせたまま、
実質10点満点を実現することはできま
すが、それにはとてつもないお金が掛
かかるものです。ノア/ヴォクシーと
はなんだっけ、という開発の心を、も
っともっと研ぎ澄ましたクルマを作る
ためには、もっと速く、もっと広く、
もっと安くといったリクエストを、何
でもかんでもできるフリして受け入れ
てしまわないということも必要じゃな
いかと思うわけです。


もう1つは、誤操作を防ぐ工夫をもっ
と進めてほしいということです。


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例えば運転席の右下には、こういうス
イッチパネルがあります。"TRC OFF"
というスイッチの意味と用途を、この
クルマの何人のオーナーが理解できる
でしょうか。トラクションコントロー
ルをオフにします、というこのスイッ
チは、極端に滑りやすい路面で発進で
きなくなったときに使うのですが、説
明書に書いてあるというだけで、スイ
ッチはこの表記にしておいていいもの
かしら、と思うわけです。できれば意
味明瞭なイラスト、あるいはださくて
も“滑り空転時・脱出”とか、どうし
ても英語にしたいのであれば"ESCAPE-
MUD"のように表記するべきです。

実はこの写真に写っている3種類のス
イッチの表記には、統一性がまったく
ないんですね。"TRC OFF"のTRCと
いうのは、機構の呼称です。TRCを
知らなければなんのスイッチか分かり
ませんし、操作する人の目的はTRC
をオフにすることではなく、ぬかるみ
を脱出したいということなんだという
ことに、まったく思い及んでいない表
記です。この表記に従うのであれば、
下のスライドドアのスイッチは、
E.MOTOR-ONのようになってしま
うわけです。そりゃおかしいでしょと
思うんです。

表記を確認して操作する位置にはない
スイッチですから、文字は小さくても
いいです。操作の目的が示されている
ことと、手探りで触っても絶対に誤操
作のない工夫をもっと盛り込むべきで
す。

スライドドアの開閉スイッチは、中央
に凹みのあるメインスイッチがあって、
その両サイドに開閉ごとに異なる凸表
現のあるシーソースイッチというレイ
アウトになっています。この3種類の
スイッチの中では、いちばん工夫がさ
れていると思いますが、もっと極端な
表現でもいいですね。例えばシーソー
スイッチの支点を思い切りオープン側
に設定してしまえば、オープン側は押
すという操作を受け付けなくなります。
ちょうど下にあるパワーウインドウの
スイッチのように、引けばオープン、
押せばクローズというようにすれば、
双方押す方向のスイッチよりもはるか
に誤操作が少なくなります。細かいこ
とですが、クルマに道具以上の興味を
持たない人が操作するのだということ
を考えれば、誤操作に対する配慮は表
記の問題も含めて、もっともっと徹底
的に攻めこんでもいいポイントだと思
うわけです。


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ドアハンドルにあるスイッチ類は、ず
いぶんと機能的に整理されていて、と
てもいい感じです。運転席のウインド
ウだけ表面に凸表現が刻まれていてい
ますが、どうせ違う金型を1つ作るの
であれば、スイッチレバー自体を少し
長くするとか短くするとかすれば、も
っと明確に指先だけでスイッチの配列
を感じることができます。現状のスイ
ッチでは、窓を開けるとき、それが運
転席のスイッチなのかどうかを知るた
めには、本来閉める操作方向であるス
イッチ上面を撫でるか、スイッチパネ
ル全体にさっと触れる必要があります。
なんだそんな細かいこと、と思うかも
しれませんが、ヒューマンエラーを防
ぐこととは、そういう細かいことの積
み重ねで実現していくもので、それは
ノア/ヴォクシーのようなクルマの場
合、とても大切なことなんです。


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広いダッシュボードのど真ん中にある
分かりやすいハザードスイッチ。運転
者の視界の邪魔などお構いなしでダッ
シュボードの上にモノを置く助手席の
人のモラルに頼らないように、モノが
置きにくい天面の傾斜と、置くならこ
ちらへというメッセージが一目瞭然の
目立つ取っ手が付いたふた付きのもの
入れ。これこそ、ノア/ヴォクシーの
あるべき姿、間違えようったって間違
えようのない極上のデザインだと思い
ます。本編にも書いたエアコン操作パ
ネル、次の世代では音声認識くらいま
で進むかな。車内の誰かが「暑い」と
か「寒い」と言ったその言葉に反応し
て、席ごとの空調の案配を微調整する
ような仕組み。いつの日か、本物の台
所をはるかに超えた家電としてのクル
マに成長すれば、それはそれでとって
も素晴らしく、すごいことだと思うん
です。



山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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