働くということ・53  高島宏平さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

オイシックス株式会社
代表取締役社長 高島宏平さん


恐らく人は誰でも、自分の経験してき
たことや、それに費やしてきた時間を
肯定したいんです。

個人的なことでも、仕事、会社の中の
自分の役割みたいなことでも、そうい
う傾向があるように思います。

それは一種の自衛本能だし、確かにそ
の方が楽なんです。常に自己否定など
してたら、人間、つぶれてしまいます。

だから、仕事についてもやっているう
ちに面白くなってきたと、よく言われ
てますけど、実は私はそれも、やって
いるうちに面白くなるように、無意識
に自分をコントロールしてるんだと思
うんです。

実際、私自身も、すごくそういう感覚
に騙されやすいというか、呑まれやす
い。

例えば、会社という組織の中で出世競
争に夢中になったりしたら、それはそ
れで凄くやりがいを感じて、猛烈に頑
張りかねないタイプなんです。

大きな組織の中で出世してゆくという
生き方を否定するわけじゃないですけ
ど、僕はそういうのは好きじゃなかっ
た。

だから、本意ではない流れに呑み込ま
れて、結果的にそこで過ごした時間を、
充実した人生だったなんて肯定しなき
ゃならないような、そんなことは避け
ようという、私なりの自衛本能が働い
たんですね。

マッキンゼーを辞めて独立したのは、
そういう意識が強く働いた結果だと思
います。僕、すごく臆病なんですよ。

ところが、実際の事の流れは、なにひ
とつ緊迫感がありませんでした。

2年間勤めたその会社を辞めようと決
めた瞬間を鮮明に覚えているとか、起
業したときも、独立したぞという感覚
があったとか、そういうことがないん
です。

すごく自然に振る舞っていたら、いつ
の間にか退社し、起業していた、とい
う感じです。安定していたことを捨て
るとか捨てないとか、そういうことも
考えてませんでしたし。

常識的なリスクの少ない生き方って、
あるでしょう。優秀な学校を卒業して、
大企業に就職して、キャリアを積んで。

人によっては、請われて転職するかも
しれません。そうやって、個人的な資
産を貯めて、社会的な地位を築いて、
素敵な家庭を持ち、やっていくみたい
な人生も素敵だとは思います。これっ
て、一般的にはリスクと対極にある生
き方だと思うんですが、でも、あると
き、レールの上に乗ってるような、そ
んな生き方が、ものすごく大きなリス
クを伴ってるんじゃないかって思うよ
うになったんです。

つまり、もう完全にレールの上に乗っ
かってしまったら、レールの敷いてあ
るようにしか先へ進めない。

そういう人はとてもたくさんいて、

語弊を恐れずに言うと、そういう人が
地球からひとりいなくなっても、別に
いいんじゃないのって思われるような
存在に、自分がなってしまうというリ
スクを感じたんですね。

加えて言うと、そういう生き方を、わ
ざわざ自分が追わなくてもいいかな、
とも思いました。

ならば、もっとプラスを感じられる何
かがある生き方がしたいと思って、自
然に動き始めたことが今につながって
いるんだと思います。

だからもちろん、野菜を扱いたいから
起業したということでも、ありません
でした。

食卓にあがる食材をやってみようと思
ったのは、世の中のプラスになりつつ、
事業としてもやっていけることを自分
なりに十分調べた結果、決めたことな
んです。何より、夢中になれそうな気
がしましたしね。

日本の食卓を変えたいという大きな目
標に向けて努力した結果が、一つひと
つ結実していく興奮こそ、私にとって
の働くということの、いちばんの面白
さなんです。

Interview, Writing: 山口宗久

(株)リクルート社内広報誌「かもめ」
「かもめ」2008年11月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。



山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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