働くということ・54(最終回)  黒田久子さん | くるまの達人

くるまの達人

とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

姫路少年刑務所
篤志面接委員 黒田久子さん


あんた、仕事が楽しくなくて悩んでる
んか? そら、仕事が楽しくなかった
ら困るやろ? 困るやろうな。

そしたら、打ち込んだらええよ。その
仕事に打ち込んだら、楽しくないはず
ないわ。

どんな仕事でも、ええんよ。

自分の仕事、そんなに簡単に変えるか?
変えへんやろ? そしたら、それがあ
んたの仕事やんか。

私はこれが仕事や。こうやって、悩ん
でる子らの話を聞いて、話をするのが
仕事や。

この仕事をあんた、変えられへんやん
か。そしたら、それでええやんか。一
生懸命したらそれでええやん。

もっと面白いとか、やり甲斐を感じる
仕事を探してるんやったら、世の中の
ためになることを考え。そうするとえ
えと思うよ。

でも、どこにそんな仕事があるんや?
なんて、人に聞いたらあかんのやで。
それは、あんたが探すんや。私が探す
もんと違うんやで。わかるやろ。私が
“これ、しなはれ”と言うわけには、
いかんやん。自分で、な。

仕事はな、金儲けやと思うたらあかん
で。お金欲しいんか? どんだけ欲し
いんや? もうええやろ。もう私はお
金もいらん。

仕事はな、世の中に奉仕する気になっ
てすることや。そうしたら、必要なお
金もいただけるものなんやで。

そしてあんた、定年のない仕事を探し
や。定年のない仕事というのはな、死
ぬまで関わり続けられると思える仕事
のことやで。

それは、お金に代えられない問題や。
働いてるとな、働くのがしんどいと思
うこともある。そういうときに助けて
くれるのは、お金と違うんやで。私は
お金と違うもん。

私は死ぬまでやっていこうと思える仕
事やったら、打ち込める。

仕事はな、一生懸命打ち込んでいれば
楽しいんよ。とにかく働いていられる
ということが、とても大切なことやと
思うよ。

私はもう50年以上この仕事をしとる。
そういう出会いというのは、突如とし
て来るよ。

自分で探そう見つけようと思い続けて
いたら、突如として巡り会うんよ、ほ
んまやで。

私とこの仕事の出会いは、偶然といえ
ば偶然やけど、いろいろしてきたから
出会えたのかもしらんね。

保護司したり、人権擁護委員したりし
てたことが、つながって出会えたんか
しらね。

仮出所を控えて世の中へ戻っていこう
とする子らは、みんな別々の問題を持
っとるん。

その子どもたちに会うて、話を聞いて、
話をする。もう50年以上この仕事やっ
てるけど、一人ひとり違うんよ。

ただ、誰にとっても家庭は大事やな。
帰るところがなかったら辛いやろ。生
きていかれへんやん。せやから、世の
中に戻ったら働いて、家庭をつくりな
さいと言うんよ。

私、この仕事に誇りもっとんや。

働くということの目的は、働くこと自
体にあるんかもしらんね。だって、何
もなかったら辛いわ。

私、家でゴロゴロしてるだけやと、辛
いわ。あんた、何もなかったらどない
する? 辛いやろ? きっと辛いと思
うで。

だから、どんな仕事かということにこ
だわりすぎて、働くこともできんよう
になったら、そら辛いやんか。だから
その仕事に打ち込んで一生懸命働くん
やな。

そしたら仕事は楽しい。

働くということは、私に言わせたら、
ま、そんなこっちゃな。

Interview, Writing: 山口宗久


(株)リクルート社内広報誌「かもめ」
2008年12月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです


篤志(とくし)面接委員
法務省の委託を受けて行われるボラン
ティアで、受刑者の悩みの相談や、法
律相談、書道や短歌などの趣味・教養
の指導などが行われる。委員は教員や
弁護士など公的免許・資格を有する職
業人から、宗教家、カウンセラー、主
婦など多様な職域、年齢から選ばれる。
現在、日本では約1800人、姫路少年刑
務所では9人の篤志面接委員が活動し
ている。


※記事掲載への思いについて。



山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
Twitter / nineover
facebook / Yamaguchi Munehisa