働くということ・35 永田直史さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

海上保安庁 第三管区海上保安本部
潜水士 永田直史 さん


高校生の時に、阪神大震災の被災地で
活躍しているレスキュー隊の様子をテ
レビで見たときから、自分も将来はそ
ういう現場で人を助ける仕事がしたい
と思っていました。

上下関係がはっきりしている厳しい職
場なんだろうというイメージはありま
したけど、それよりもこの仕事がやり
たいという気持ちのほうが強かったの
で、細かいことはあまり考えずに海上
保安庁に入庁したんです。

でも潜水士という仕事を知ったのは海
上保安庁に入庁してからなんです。巡
視船の乗組員として潜水士の支援を行
ったときに、船の上からは何も見えな
い海中で、一体どんな仕事をしている
んだろうということにとても興味を持
って潜水士を志願して、現在に至って
います。

潜水士になりたての頃は、学生時代の
友達に会うと、なにか特殊な仕事をし
ているような言われ方をしたこともあ
りましたけど、今ではそんなことはあ
りません。

確かに危険を感じる現場もあるんです
が、年中そんな場面で働いているわけ
ではないですから。

実際の事案は、ヒーローもののドラマ
のようなことよりも、海難で行方不明
になった方の捜索や、事故船舶等の水
中捜査であることのほうが圧倒的に多
いんです。

そういう意味では、多くの方がイメー
ジしているよりも、ずっと地味な仕事
だと思います。自分はこの仕事しか経
験がありませんが、きっと普通の会社
に勤めているのと変わらないように感
じます。

ただし自分の仕事は、チームで動くこ
とが絶対に必要なので、隊員ひとりひ
とりがどんなクセを持った人間なのか
をよく知ることが大切だという点が、
特徴といえばそうかもしれません。

潜水するときはバディといって、必ず
二人一組で行動します。自分たちが潜
る海は、ヘドロや時化(しけ)で巻き
上げられた砂で自分の手のひらさえ見
えないくらい濁っていたり、夜間や沈
没した船内の捜索などは本当に真っ暗
闇だったりするんです。

声も出せない海の中で、万が一、ロー
プが身体に絡まったり潜水具に不具合
が生じても、自分の異常にいち早く気
づいて対処してくれる相手と一緒なん
だという暗黙の安心感あってこそ成り
立つ仕事なんです。

当然、潜水士としての技術レベルにも
差がありますから、任務が終わった後
や訓練中に指摘をしあうこともありま
す。また、落ち込んだ人間がいれば声
をかけ、励ましの言葉をかけたりする
ように気をつけてます。時には、勤務
が明けたときにみんなで飲みに行って、
上下の関係もなく意見をぶつけ合った
りもします。

実は自分はまだ、非常に切迫した状況
の要救助者を救助するような事案に遭
遇した経験がありません。

今はそのような事案に出動したいとい
う気持ちがいちばん強いです。

そういう事案があったときにそれをう
まくやるためには、訓練を通じて自分
自身の技術レベルを高めることはもち
ろん、信頼できる人間関係を築き上げ
ておくことが欠かせないと思うんです。

上官は要救助者と同じくらい自分たち
潜水士の安全を考えた上で命令を出し
ている。バディは自分のことを一心同
体だと思って行動している。そういう
強い信頼関係あってこそ、自分は安心
して海へ向かうことができるんです。

Interview, Writing: 山口宗久


「かもめ」2007年1月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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