霧にむせぶ修験の山 | WANDERER☆Y

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山上ヶ岳(1719m奈良県吉野郡天川村)2024年7月20日(土)

 紀伊半島を南北に貫く大峰山脈の主峰といえば、近畿最高峰の八経が岳なんだが、この山脈で一番名の知れた山と言えば何といっても大峰山とも呼ばれる山上ヶ岳だろう。
 1300年前、修験道の開祖、役小角がその頂に大峰山寺を開いて以来厚い信仰を集め、今でも行者姿に身を固めた人々が多く参拝に脚を運んでいる。
 私もこの山には何度も登っており13年前にも吉野から奥掛け道を縦走し山頂を目指している。
 最近、諸事情により近辺の山しか行けていなかったがようやく時間が取れ、車中泊を絡めた登山が出来るようになったので久々にこの“修験の山”を目指すことにした。


 今回の計画は山上ヶ岳のメインルートとも言える洞川温泉街を通って清浄大橋からのコースでは無く、吉野から続く奥掛け道の途中にある五番関トンネルからのコースを選ぶ。
 理由は簡単。清浄大橋からのコースは駐車場にお金がかかるからだ。五番関トンネルにもまぁまぁ広いスペースがありその上無料。節約は大事だ。


 例によって例のごとく我が愛車兼移動秘密基地マークⅣに山道具に酒肴家財一式を詰め込んで夜の9時に自宅を立つ。
 早いうちについておかないと駐車スペースが無くなる事を懸念しての行動だ。
 夜の南阪奈道路を駆けに駆け、まだ窓に明かりがともる洞川温泉街を通過して五番関トンネル入り口に着いたのは11時頃。
 下車してみると下界とは打って変わっての冷涼な空気。地獄の暑さの大阪の街とは雲泥の差、生き返る心地だ。
 いい感じに人目がつかない場所に車を止めると先ずは到着祝いの一杯。
 深夜の酒盛りも明日に備え早々に切り上げ歯を磨いて車内にしつらえた寝床に横になる。

 翌朝5時、目覚まし時計のアラームにたたき起こされ簡単に洗面とメンチカツパンの朝食を済ませ山服に着替える。
 準備完了は7時、装備を整え出発。
 先ずは五番関を目指し杉木立の急登をウンウン言いながら詰め登る。
 だが空気は涼しいので思ったほどつらさは感じない。
 15分ほどで五番関の女人結界に到着。


 ここから以降は今なお女性の入山は禁じられている。
 色々議論は有るらしいが、1300年も続いて来たしきたりを今さら改める必要なんて無いと思うし、これ込みで世界遺産になったのだから女人禁制は解く必要は無い。
 女性差別?ジェンダーレス?知った事かw
 
 結界からはトレイルは縦走路になり歩きやすくなる。さらに進むと鍋冠行者堂跡に到着。
 この場所でビバークしていた役小角が大蛇の襲撃を受け料理用の鍋で身を守りつつ呪術で大蛇を倒したと言う伝説の残る場所だ。


 この場所以降から周囲の様相はガラリと変わる。植林が少なくなり天然林が増えて来る。良いよ大峰山らしくなってきた。
 そして道もさらになだらかで清らかな山の空気を楽しみながらのんびり歩ける実に快適な登山だ。
 今宿跡で長い目の休憩。今回も行動食は個別包装のミニお菓子。これが結構便利でサッサと食べられすぐにエネルギーになってくれる。
 問題はゴミが出る事くらいか?ポケットやチェストバッグに詰めれば問題ない。
 そして夏の定番レモンの蜂蜜漬け。空になったジャムの瓶を消毒し2~3回分は作り置きしたその一部をプラボトルに入れて持参した。
 やはりレモンのクエン酸と蜂蜜の糖分は疲労に効く。

 行動を再開し気持ちのいいトレイルを進む事45分。泥辻茶屋に到着。ここでトレイルは清浄大橋からのメインコースと合流する。
 ここでようやく他の登山者の姿を見る。普通の登山者に交じり白い装束に頭に頭襟を頂き手には金剛杖を携えた行者姿の方もチラホラ。


 茶屋で熱いお茶を振る舞われ、スポーツドリンクと水を補充して前進、次のだらすけ茶屋で忘れて来たクマよけ鈴と登山バッジを購入し山頂を目指す。
 鐘掛岩を当然スルーしてお亀石を横に見て良いよ大峰山寺の領域に入る。
 ここから雨がポツポツと。レインスーツを着るほどでは無いが岩場にくると足元が悪くなる。足元注意で進むことにする。
 トレイルの傍らには大峰信仰の講の人々が建てた石や木の碑が無数に点在し、その間を濃厚な霧が通り過ぎ何やら神秘的な雰囲気を醸し出している。


 聖域に足を踏み入れた感が増して来る。
 宿坊の甍が目に入り、そこに泊っていた参拝者から『ようお参り』と声を掛けられつつ霧の中を行くと巨大な山門が現れる。大峰山寺はもうすぐだ。
 門をくぐり石段を登り11時過ぎに本堂の前に立つ。出発から4時間。


 今年は大峰山が世界遺産に指定され20年目と言う事で、秘仏である本尊、蔵王権現が御開帳されているとの事で早速ご尊顔を拝する事とする。
 お賽銭をして帽子を脱ぎ、手を合わせ姿を拝見する。
 『サタデーナイトフィーバー』のジョン・トラボルタ張りのキメキメのポーズを取られている権現様は時空を超えた風格を漂わせておいでだった。
 さて、雨は止んだが霧は濃くなってきた。下山する事としますか。

 下山ルートは来た道を忠実に辿る事とする。
 途中、あの縄に括りつけられ絶壁を覗かせる事で知られる『西の覗』に差し掛かり、興味本位で立ち寄ってみる。
 そこにはちゃんとスタッフ(?)方が2人いて行をサポートしてくれるようになっている。
 一応、下は覗いてみたが・・・・・・。霧でなんにも見えない。早々に退散しよう。
 降下してゆくにつれ周囲の霧は晴れて行き、お茶屋を通過し再び奥掛け道に合流するころには晴れ間も見えてきて、五番関に戻るころには気温も上昇してきた。


 2時前に五番関トンネルに到着。無事大峰登山は終了だ。
 ちなみに、止まっていた車は私のデリカともう一台だけ、駐車スペースが無くなる心配は杞憂と言う奴だったようだ。

 汗と霧でグジョグショになった山服を素早く脱いでハンガーにかけ運転席辺りに吊るす。
 乾いた衣装に着替えイスとテーブルをだし先ずは下山祝いの一杯と行く。
 ああ、美味いなぁ~。このために山に登ってるみたいなもんよ。
 ラジオを聞きつつ第三のビールを2缶ほど開け、午睡の後に夕食の支度に入る。
 今日のメニューは『豚の味噌漬けの蒸し焼き』
 前日から味噌に漬け込んだトンカツ用の豚肉をざく切りキャベツやジャガイモなんかと共に鍋に詰め込み蒸し焼きにするだけの簡単料理。
 そして、今回、今まで使っていたミニカセットコンロから変わって『タフまる・ジュニア』を投入することにした。
 やはりアウドドアユースに特化したカセットコンロだけあって、耐風性も火力も文句なし。そのうえ名前通りにタフな外観も申し分ない。


 さて、『豚の味噌漬けの蒸し焼き』は日が暮れる頃には美味そうな香りを立てて出来上がり、これまた第三のビールやらカップ酒やらと共に頂く。
 やっぱり外で食う飯は最高ヨ。
 すっかり完食の後は車内の寝床に引きこもり、ジャックダニエルをチビチビやりながら山奥の夜更けを堪能する。

 翌日は9時頃まで寝床でゴロゴロし、時間を潰したのちに新装開店した洞川温泉センターでひと風呂浴びる。


 その後は近所の食堂でみるみる内に満杯になってゆく村営駐車場に驚きつつ天丼なんて食べて帰阪の途に就く。
 久々に充実した感のある登山が出来た。
 さて、次は何処を目指そうか?