魚も空気を読む?「恐怖」の伝播『又吉直樹のヘウレーカ!』

 


 『又吉直樹のヘウレーカ!「釣りは科学でうまくなる?」』(2020年11月25日(水) 午後10:00~午後10:45放送)を見ました(実際は再放送で大部分を見ました)。
 カルマン渦でルアーの動きが魚の動きそっくりに見えるのも面白かったですか、ゲストの先生の話のほうが前回の「空気」の話とつながっているようでもあり、内容も興味深く印象に残りました。ナレーションの吉村崇さんも、最後に「魚も空気を読む」?と締め括っていました。前回の放送内容(「なぜ人は“空気”を読むのか?」)と関連付けるための誘導かもしれませんが、それならそれで乗ってみたいと思います。
 メインである釣りの話の解説の先生とは別に、ゲストの先生、広島大学の吉田将之准教授は、もともと生物としての人間への興味から、心理学が扱う分野を生物学的にアプローチするというユニークな研究をされている方でした。実験対象は魚類が中心で、その理由は魚の脳とヒトの脳は基本構造が同じだからということです。
 5種類ほどの魚と、それぞれの脳の構造を描いた図を整合させるクイズで又吉さんは見事全問正解。どの部分が発達しているかで、能力に特徴があることがわかります。
 餌への反応は嗅覚でアミノ酸を感じとっているということで、水槽にいる魚が、アミノ酸を染み込ませた綿棒のようなものを入れると反応し集まってくる実演がありました。
 魚も「学習」する能力があるということで、明かりと電気ショックをセットにした学習の実験では、明かりがついただけで、身体の恐怖反応が起こるという話の紹介がありました。
 表皮に外的な作用で傷がつくと警報物質が出るそうで(自分の意思では出せない)、それが拡散すると「恐怖」が伝播するそうです(仲間がやられたという情報になる)。実際に収録中の実験で、小さな魚のいる水槽(種類は何と言ったか忘れました)に警報物質のついた綿棒のようなものを水に漬けると、魚はパニックのように動き回り、隠れる場所を見つけた者はそこで動かなくなりました(隠れると1、2時間は出てこないそう)。呼吸が速くなっているのもわかりました。ヒト用の抗不安薬は魚にも効き、恐怖への反応が弱まると言います。
 「痛み」について、魚は報告しないため確認しようがないものの、ヒトと同じ機構があるのだから感じているのではないかと(吉田先生は)思うということでした。

 さて、前回の『又吉直樹のヘウレーカ!「なぜ人は“空気”を読むのか?」』のテーマ「空気(=同調圧力)」との共通点はというと、「恐怖」が行動を媒介している点ではないかと私は感じました。前回の『ヘウレーカ』では、「恐怖心」というものははっきり出てきませんでしたが、私自身は当ブログ(2020年11月21日「SNSは同調圧力を加速するか」)で同調圧力の根源に「恐怖心」があると考察していたところです。(人は社会的動物であるが故に人の社会の中で安心感を求める作用が生存欲求としてあり、その裏返しとして仲間外れにされ排除されることへの恐怖心があるということ)
 今回の番組の魚類での実験結果から、「恐怖」に対する反応というものは、脊椎動物での脳、神経の反応として根源的なものなのだろうと感じました。それだけ強く働く反応ということになります。また、扇動に反応しやすい「感情、情緒に傾きがちな性質」の一端は、この反応とも関わりがあるかもしれないと思いました。
 ヒトの関係において、見せしめという「恐怖」によって人の行動のコントロール、支配が行われる恐怖政治では、警報物質を媒介せずとも恐怖が伝播します。

 扇動や分断という政治的な作用は少なからず同調圧力を含んでいるという点で、前に述べたように背景に「恐怖」の要素があるのではないかと想像します。ということは恐怖政治と類似性があるということで、決して健全なものとは言えないと思います。誰かを意図的に傷つけて恣意的に政治を動かそうとしていることになるからです。政治家などの扇動者が誹謗中傷など(権力者であれば人事なども使い)誰かを攻撃、排除し(傷つけて)「危険を見せる」ことで危険への反応(思考を停止し、自らへの危険を回避する行動をとる)を「意図的に利用」しているのであり、人々が作為的に見せられた危険を信じてしまうことによって、むしろ(人々にとっての)危険が現実化してしまうことを意味します。

 なお、誹謗中傷と異議申し立て(異なる見解の表明)とは「人への攻撃性の有無」の点で別物なので注意が必要です。誹謗中傷は人への攻撃と排除を伴います。例えば安倍元総理が演説中に反安倍政権派を指して言った「“こんな人たち”に負けるわけにはいかない」も、小泉元総理が郵政民営化法案に関し「私の内閣の方針に反対する勢力は“抵抗勢力”だ」と言い、選挙で“刺客”候補を立てたのも人への攻撃による排除の一種です。判断(意思)や考えや行為への異議に留まらず、人への攻撃が始まると誹謗中傷に近づいていきます。
 異なる意見の表明を誹謗中傷のような「人への攻撃」だと勘違いしてしまうと判断を間違います。例えば、政府与党による同調圧力に影響された人には、野党の見解表明や国会での質問は同調圧力へ刃向かうものとして、全部を「誹謗中傷」と同類のものだと感じてしまう人は多いかもしれません。そうすると、もう聞く耳がなくなり理性的な判断から遠ざかるため、ますます同調圧力に染まっていくことになります。
 もう一つ、紛らわしいものがあります。例えば、「前例打破」のようなプロパガンダです。「前例=悪」というのは、あまりに短絡的で道理が無いとは思いませんか?それが正しいというなら、この世のもの全てが悪ということになります。これは、現に特定の人を攻撃し排除するために使われたレッテルで、プロパガンダです。これは一見すると見解表明のようですが、少し考えれば道理がないとわかるものであり、人を攻撃するための道具です。

 民衆が蜂起して独裁政権や他国の傀儡政権を倒しても、再び軍事独裁政権になってしまうことがありますが、これは、人を攻撃することを肯定してしまっているからと思えてなりません。

 

 

 巧みに「恐怖」を使ったコントロール、支配が行われ、そこから人への攻撃も生まれます。作り出された「恐怖」に打ち勝って理性を保つことが求められる時代だと思います。まずは、誹謗中傷のような明らかな人への攻撃、そして道理のない見解表明(レッテル、プロパガンダとして人を攻撃する道具となるもの)に対して拍手喝采しないことが第一歩だと思います。そして道理のある見解表明には耳を傾けてみることです(道理の有る無しは判断が難しい場合もあるかもしれません)。

 

 

 稚拙な記事をお読みくださりありがとうごさいました。

 

その後、同調圧力の仕組みについてかなり踏み込んだ記事が書けました。脳の扁桃体と眼窩前頭皮質により起こっている可能性、セロトニントランスポーター遺伝子の型により不安感受性の傾向が違い、日本人は世界的にも最も不安感受性が高いこと、など現状が説明できる内容があります。「恐怖」が関わっていることは間違いないと思います。せひ、合わせてお読みください。(2021/3/13)

 

↓(さらに新しい記事)2021/9/27追記

同調圧力と全体主義とポピュリズムについても記載。合わせてお読みくだされば幸いです。

 

(追記 2021/4/21 魚の知能や感情についてサイエンスZEROでも面白い回があったので紹介します。NHKサイトの番組紹介から)

 

サイエンスZERO「びっくり!魚は頭がいい」
[Eテレ] 2021年04月18日 午後11:30 ~ 午前0:00 (30分)
魚の知能に大注目!なんと「思いやり」や「いじわる」まである!?これまでの常識を覆す高度な知能が最新の研究で次々判明。魚のイメージがガラリと変わること請け合い!
出演者ほか
【ゲスト】大阪市立大学教授…幸田正典,【司会】小島瑠璃子,浅井理,【語り】川野剛稔
詳細
脊椎動物の中で最も古い時代に誕生し、頭の良い生き物とは思われていなかった「魚」。近年、脳や行動の研究が飛躍的に進み、常識を大きく覆すような知能が明らかになってきた。仲間の顔を正確に見分けたり、鏡に映る姿を自分だと理解するなどの高度な認知能力が次々判明。さらに、自分が置かれた状況に応じて、「思いやり」や「いじわる」など異なる行動を選択する理解力を持つことも明らかに!研究者も驚く最新研究を紹介する。

 

 


(参考)
広島大学 生物生産学部 教授インタビュー「教授に聞く 吉田将之准教授に聞きました!」
https://home.hiroshima-u.ac.jp/gsbstop/interview/ja/yoshida.html

 

↓同調圧力に関する新しい記事
「北欧の文化Lagomの幸福と対照的な日本人の同調圧力による極端さ」2021/12/15
も参照してください。(2021/12/17追記)