鼠と駝鳥 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夜、一匹の鼠が草原地帯を走っていて大きな柔らかな物体に衝突した。その拍子に聞き覚えがある声が辺りに響いたので鼠は当たった相手が暗闇の中で座っていた駝鳥だと気付いた。

 「やあ。ごめんよ」と鼠は謝った。

 駝鳥は瞼を開いて周りを見回したが、夜目が利かないので視界には暗闇しか入ってこなかった。ただ、声を聞いて相手の正体が鼠だと察した。自分に襲い掛かってくるような恐ろしい猛獣ではなかったようなので胸を撫で下ろしたのだが、鼠のせいで悲鳴を発した自分が臆病者であるように思われたので恥ずかしくなった。駝鳥はできるだけ威厳がある声を出そうと努めながら鼠に問い掛けた。「何か、用か?」

 まったく偶発的な衝突であり、駝鳥に何かを期待しているわけではなかったので鼠はその問い掛けを聞いて当惑させられた。しかし、駝鳥の声が威圧的だったので用事を言わなければ攻撃されるのかもしれないという危惧を抱いた。それで、鼠はどうにか咄嗟に用事を考え出して口を開いた。「そういえば、前々から気になっていたのだけど、君はまだ羽を持っているのだから将来的には再び空を飛ぼうと考えているの?」

 「くだらない質問だな。そもそも俺は生まれてから一度も空を飛んだ経験がない。他の駝鳥だって飛んでいない。お前だって駝鳥が空を飛んだ姿を見たという記憶を持っていないはずだ」と駝鳥は言い返した。


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