自動車を見つけた記憶 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 休日の夕暮れ時に外出先から帰宅すると妻が居間のテーブルに数枚の写真を並べていた。十年以上も前に二人きりで行った旅行先で撮った写真だと一目でわかった。「懐かしいね。どこに仕舞ってあったの?」と私は妻に話し掛けた。

 「掃除をしていたら棚の奥から出てきたのよ。ねえ。この旅行中に駐車場に停めておいたはずの自動車が見つからなくて大変だったという記憶があるのだけど、あなたは憶えている?」と妻は問い掛けてきた。

 「ああ。あの時は大変だったね。どこの駐車場に停めたのかわからなくなって色々と歩き回ったけど、坂道が多い場所だったから足が草臥れたよね。永遠に見つからないかと思って焦ったよ」と私は言いながら妻の隣のソファに腰を下ろした。

 「そうね。本当に大変だったわ。でも、自動車を探し回っている記憶はあるのだけど、自動車を見つけた記憶がないのよ。それに、自動車に乗って帰宅した記憶もないわ。自動車を探した後の写真もここにはないのよ。あなたは自動車を見つけた記憶があるの?」と妻は深刻そうな表情で訊いてきた。

 「いや。憶えていないよ。しかし、自動車が見つからないまま帰宅したという記憶もないよ。だから、自動車は見つかったのだろう」と私は肩を竦めてから言った。

 「駄目よ。自動車を見つけた記憶がないなら帰宅できたという実感が湧かないわ」と妻は深刻そうな表情のまま言った。


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