病院ではない | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夢の中で病院の通路を歩いていた。私は知り合いが入院しているので見舞いに来たつもりだったのだが、病室の場所がわからなくなっていた。それどころか、知り合いの名前や顔さえも思い出せなくなっていた。それで、途方に暮れて立ち止まると背後から話し掛けられた。「どうかしましたか?」

 振り返ると一人の女が立っていた。私は病院を訪れた目的を見失っている現状が恥ずかしいので言葉が口から出てこなくなった。すると、女が片手で私の腕を掴んできた。「さあ。行きましょう」とその女は言った。

 どこへ連れて行かれるのだろうかと私は考えた。しかし、その女の態度が堂々としているので身を任せるべきかもしれないという気がした。現状の自分よりもずっと頼りになりそうだと思われたのだった。「あなたはこの病院の関係者ですか?」と私はその女に引っ張られるようにして歩き出してから尋ねた。

 すると、女はこちらを振り向いて笑みを浮かべた。「ここは病院ではありませんよ」と女は言った。それを聞いて私はすべての心配事が一瞬にして解消されたような気がして嬉しくなった。ここが病院ではないのなら病院を訪れた理由など最初からなかったのだと思った。誰も入院などしていなかったのだと私は考えた。


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