牢屋に戻りなさい | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夢の中で刑務所の通路を歩いていた。両側に牢屋が幾つも並んでいるのだが、それらの中に囚人の姿はなかった。それどころか、すべての扉が開いていて自由に出入りできるようになっていた。今は使用されていない施設なのだろうかと私は考えていた。

 「どこへ行くのですか?」と背後から声を掛けられた。立ち止まって振り返ると一人の男が立っていた。きっと看守なのだろうと私は男の険しい表情を見ながら思った。だとすると、この建物は刑務所として機能しているようだと私は考えた。

 「早く自分の牢屋に戻りなさい」と男は命令してきた。

 それを聞き、私はどうやら自分が囚人と認識されているらしいと察して愕然とした。よく見ると私は囚人服を着ていた。サイズが大きくて袖の長さが合っていないので自分の手がまったく見えなくなっていた。随分と間抜けな姿だと私は思った。

 「牢屋に戻りなさい」と視界の外から看守が再び命令してきた。

 「囚人服を着ているのですから牢屋に入っていなくても私は囚人ですよ」と私は返事をした。言ってから変な理屈だと感じた。私としては牢屋に戻りたくないのだが、その気持ちが相手に伝わったかどうかも怪しいと思った。

 「牢屋に戻りなさい」と看守は険しい表情を少しも変えずに繰り返した。

 やはり相手を説得できなかったようだと私は察した。ただ、自分の牢屋の場所を思い出せないので茫然と立ち尽くした。


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