刑務所の静かな通路 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夜、私は刑務所内を巡回していた。牢屋の中は既に消灯されているのだが、通路から照明の光線が差し込んでいるので囚人達の様子はよく見えていた。ほとんどの囚人達は静かで鼾さえ立てていなかった。私の足音だけが通路に響いていた。

 見回りを終えて監視室に入ると私は警棒や懐中電灯などを机の上に置いた。部屋の中には同僚の看守が二人いたが、彼等は椅子に座って幾つもの監視カメラの映像を見守っていた。私はそれらの画面に視線を向けた。さっきまで自分が歩いていた通路が映っていたが、今は誰も歩いていなかった。いつも通り、白黒で画質が荒かった。

 片方の同僚がこちらに振り返って言ってきた。「お疲れ様。どうだった?」

 「モニターで見ていたのだろう?何も異変はなかったよ」と私は答えた。しかし、なんとなく気持ちがそわそわとして落ち着かなくなっていた。私は自分の手を見てみた。白黒ではなく、画質が荒くもなかった。それで、私は胸を撫で下ろした。


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