妻の長い後ろ姿 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 休日の昼下がり、私は畳の上に寝転がってラジオを聴いていたのだったが、いつの間にか眠りに落ちていたようだった。目が醒めるとラジオの音が消えていたので私は家族の誰かが電源を消したのだろうかと考えた。

 瞼を開けると座布団に座っている妻の後ろ姿が見えた。今日は出勤日だったはずだが、何かの都合があって早退したのだろうかと私は考えた。その疑問を口に出したかったのだが、金縛りにあったように全身がまったく動かなくなっていた。このところ忙しい日々が続いていたので身体が疲れているようだと私は考えた。

 自分の身体が意のままにならなくなっていると気付くと私は心細くなってきた。妻は相変わらず部屋の反対側を向いていて顔が隠れていた。その後ろ髪がいつもよりも長いので違和感を覚えたが、見上げているので実際よりも長いように感じるのかもしれないと私は思い直した。

 しかし、髪だけではなく、首や胴体までもが随分と長くなっていた。人間ではなく、大きな蛇のようだった。さすがにおかしいので私はどうやら夢を見ているらしいと考えた。そして、妻がまだ帰宅していないようだと思うと一段と心細くなった。しかし、それでも目が醒めないで妻の後ろ姿がどんどんと長く伸び続けていた。この異常に長い後ろ姿はどのような顔をしているのだろうかと気になったが、恐ろしいので見たくないようにも感じた。


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