ないはずの視線 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夜、私は無人駅でベンチに座っていた。列車がまだ当分は到着しないはずなので視線を夜空に向けていた。晴れているので月や星がよく見えていた。

 ふと、視界の端に人影があると気付いた。いつの間にか、ベンチの近くに誰かが立っていたのだった。少しも足音などを感じていなかったので私は当惑した。そちらに目を向けると人影の正体がゾンビだったので私はさらに大きな衝撃を受けた。ゾンビは服が破けているせいで腐って変色している肉体が露になっていた。それに、頭の上半分が刃物で切断されたかのように欠けていた。

 ゾンビの顔には眼球が一つも残っていないのだが、私はないはずの視線がこちらに向けられているような気がした。私はその視線の先にいたくないのでベンチから立ち上がり、足音を立てないように注意しながらホームの端の方へと後ろ足で移動した。

 その間、ずっとゾンビの動向から目を離さなかった。ゾンビはまったく動いていないのだが、私はないはずの視線に追われているような気がしていた。そして、ゾンビの口元や背格好などが知り合いの誰かに似ていたように思われ出したので私は背筋に寒気が走ったように感じた。


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