夜、食卓に着くとテーブルの上に大きな籠が逆様にして置いてあった。その中で何かが動いているような音が聞こえてきていた。
「これは何が入っているの?」と私はテーブルの向こう側に座っている両親に訊いた。
父はにこやかに微笑みながら答えた。「鳥肉だよ。しかし、調理中にゾンビになったみたいで動きが止まらなくなってね」
「暴れているみたいだけど、食べられるの?」と私は半信半疑の気持ちで訊いた。
「大丈夫よ。火はしっかりと通っているし、味付けは済んでいるのよ。床に落ちてはいけないから念を入れるつもりで籠を被せておいたけど、手足を切り落としてあるから移動はできなくなっているわ。さあ、籠を開けましょうか。香ばしい臭いがするわよ」と言いながら母は両手で籠を持ち上げた。
皿の上で大きな肉塊がぶよぶよと波打つように動いていた。思っていたよりも大人しい暴れ方だが、この肉を食べて内蔵の中で動かれたら気持ちが悪くなりそうだと考えたので私は警戒心を抱いた。
「この肉を食べて死んだら自分もゾンビになるのではないの?」と私は食べたくないと思いながら訊いた。
「死んだ後の身体がどうなろうと気にしないよ。さあ。私が切って小皿に取り分けてあげよう」と父はナイフを持ちながら平然とした様子で言った。
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