太陽は赤くなる | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「私は昔、街に行った経験がありましてね」と老人が言い出した。

 「勝手にこの村から出てはいけないはずでしょう?」と若者は声を潜めながら言った。誰かに聞かれていないだろうかと心配し、首を竦めながら周りを見回していた。

 「あなたは知らないでしょうが、昔は自由にこの村から出られたのですよ。誰も出入り口を見張っていなかったのですからね」と老人は淡々とした調子で話し続けた。

 「街とはどのような場所なのですか?」と若者は老人に顔を近付けながら訊いた。

 「ここよりもずっと広い場所です。たくさんの家屋が建っていて大勢の人々が暮らしています。それに、この村のように周りを高い山に囲まれていないので空が広くて日没が遅いのです。そして、沈む間際の太陽は赤くなるのです」と老人は昔の記憶を思い返しながら答えた。

 「太陽が赤くなるのですか?あり得ませんよ」と若者は老人の証言を否定した。

 「この村で沈む太陽は赤くなりませんが、街で沈む太陽は赤くなるのですよ。そして、赤い太陽に照らされたら空も赤くなります。夕日と呼ばれている現象です。しかし、自分の目で見なければ信じられないかもしれませんね。あなたもいつか街に行けるといいですね」と老人はしみじみとした調子で言った。


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