頭を探す化物 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「先日、この峠道で化物に声を掛けられましてね」と一緒に歩いていた男が言い出した。

 私達は人気がない緩やかな上り坂を歩いていた。私はこの峠で化物が出現したなどという話を初めて聞いた。「どのような化物だったのですか?」と私は訊いた。

 「その化物には頭がなかったのですよ。でも、声が聞こえてくるのです。首の切断面に穴があったので声はそこから発せられていたのかもしれません。それで、その化物から『頭はどこですか?』と訊かれたのです。私は周りを見回しましたが、頭はありません。『ここにありますよ』と答えて自分の頭部を指差してみようかという考えが思い浮かびましたが、冗談では済まなさそうだったので実行には移しませんでした。『ありませんよ』とはっきり断言するだけでも化物の機嫌を損ねるのではないかと心配していたのです。それで、私は小声で『さあ』とだけ答えました。すると、化物は『困った。困った』と呟きながら通り過ぎていったのです。ほら。ここに首の切断面から滴り落ちた血が残ってますね」

 見ると地面に血溜まりがあった。まだ鮮やかな赤色が保たれていた。そこから点々と血痕が坂の上の方へと続いていた。

 「今日はまたこの峠を歩いて越えなければならないので私は朝から気が重かったのですよ。あの化物に再会してまた同じ質問を投げ掛けられるかもしれないと心配していたのです」と男は坂の上に視線を向けながら神妙な面持ちで言った。

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