峠の牛 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「先日、この峠道で侍に声を掛けられましてね」と一緒に歩いていた男が言い出した。

 「侍ですか」と私は呟いた。

 「その侍は牛を探していましてね」と男は言った。

 「牛ですか」と私は呟いた。

 「侍はこの峠道で牛と遭遇したと言いました。それで、どういう経緯があったのかは知りませんが、とにかく侍は太刀で牛の首を切り落としたらしいのです。しかし、その牛は頭を失っても死なずに走って逃げたらしいのですよ。おそらく化物だったのだろうと侍は言うのです。それで、その牛を見なかったかと私に尋ねてきたのですよ」と男は言った。

 「首を切り落とされたのでしょう?馬や鹿などと見分けが着くでしょうかね?」と私は疑問を口に出した。

 「ああ。きっと、あれですよ」と男は言った。

 男は坂道の上の方を指差していた。そこには首がない四本足の獣が立っていた。牛にしては痩せていた。頭部がないので食事を取れていないのかもしれなかった。首を切り落とされても死ななかった牛はどれだけ痩せれば死ねるのだろうかと私は考えた。

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