「その腕は必要か?」と峠道で出会った侍が私の腕を指差しながら問い掛けてきた。
剣呑な発言だと感じたので私は思わず一歩後退しながら侍の腰に差してある刀に視線を向けた。「この腕はもちろん必要ですよ」と私は答えた。微かに声が震えた。
「しかし、重そうだよ」と侍は言った。
その指摘を聞いて私は血の気が引くように感じた。先程から腕がやけに重たいと感じられていて峠を越えられそうにないと考えていたところなのだった。まるで心中を見抜かれたかのようだと思われたので私は絶句した。
「その腕は必要か?」と侍が再び問い掛けてきた。
私はさらに腕の重さが増してきたかのような気がしていた。まるで自分の身体の一部ではなくなったかのようだった。必要ではないのかもしれないという考えが脳裏を過った。
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