廊下に立っている夢 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「最近、夜中によく魘されているわね。怖い夢でも見ているの?」と妻が朝食中に訊いた。

 夫は妻の顔を見返してから答えた。「気味が悪い夢ばかり見ているよ」

 「どんな夢?」と妻は訊いた。

 「このマンションの廊下に立っている夢だよ。いつも少し違和感があるから僕達が住んでいる階の廊下ではないかもしれない。でも、このマンションの廊下だ。最近、僕はそこに立っている夢ばかり見ている。それで、廊下に立っていると次々と住民が目の前を通過していくのだけど、どうも彼等の様子が不気味でね。見た目は人間だけど、紛い物みたいに見える。まるで等身大の人形が歩いているみたいだ。彼等は僕の方を見向きもしない。ただ、歩いているだけだ。その様子を見ながら僕は気味が悪くて仕方がない。それで、いつも魘されているのだと思うよ」と夫は言った。

 「話し掛けてみたら?」と妻は提案した。

 「無理だよ。僕は彼等を人間とは思っていない。人形だと思っている。だから、まず話し掛けようという発想が浮かばないよ」と夫は冴えない表情で答えてから朝食を口に運んだ。

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