夜、枕元で会話をしている二人組の声が聞こえてきたので私は意識が覚醒した。かなりの早口だったが、発音が明瞭なので言葉の内容は聞き取れていた。
「鹿や牛は食べた草を自分の血肉に変えるけど、彼等に比べると我々の身体はとても単純だよね。なにしろ食べた肉を自分の血肉に変えるのだからね。芸がないと思わないか?」
「そうかな?そこは単純でも構わないだろう?食事中は色々な味が感じられて楽しめるけど、僕の舌は内蔵の方には伸びていないからね」
「君は味覚を重視しているようだけど、我々は人間達とは違って食材を料理して味を工夫する習慣を持っていないじゃないか。君はこの足元に寝ている人間だって生のまま丸呑みするつもりなのだろう?」
「食材は新鮮な方が美味しいよ。それに、余計な手間を掛けると麻酔の効力が薄れて口の中で暴れられる可能性があるからね」
どうやら彼等はこれから私を食べるつもりのようだった。私は怖くなって逃げ出したいと思ったが、全身が金縛りに遭ったように動かなかった。本当に麻酔を効かされているようだと察して胸中に絶望感が広がった。
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