吉兆の仮面 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夜、顔面に異物が乗っていると感じたので驚いて意識が覚醒した。私は咄嗟にそれを両手で除けそうと試みたのだが、そこには目や鼻や口などがあるばかりで実際には何も乗っていなかった。

 そういえば、夢の中で鮮やかな原色で彩られた吉兆の仮面を被って歩いていたと私は思い出した。そして、道で他人と擦れ違う度に甲高い声を張り上げていたのだった。その声はまるで人間ではなくなったかのようで普段とはまったく違っていた。

 人々は私が声を掛けると決まって笑みを浮かべながら「ありがとう。ありがとう」と言った。どうやら感謝されているらしいので私は得意な気分になっていった。とても心地良い夢だった。それで、私は幾度となく甲高い声を発していた。そして、「ありがとう」と言われる度に仮面の下で笑っていた。

 その快感の余韻が目覚めてからも胸中に残っていた。それで、私は吉兆の声を発しようと試みた。しかし、いつもと同じ味気ない人間の声しか出せなかったので落胆した。


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