円を見ると笑う | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 数年前から円を見ると反射的に笑うようになっている。真円に近ければ近い程、心の底から愉快な気分になれるという傾向がある。ただし、それ以外の場面では滅多に笑わなくなっている。それは私個人にだけ起こった感情の変化ではなく、すべての人類が円に反応して笑うようになっているらしい。

 円を見ただけで笑えるのだから幸せな世の中になったものだと当初は考えられていたのだが、人類は円や球体を作り出せなくなっている。なにしろ見ただけで笑いが止まらなくなるのだから製造に意識を集中させていられないのである。そのせいで世の中から円や球体は徐々に失われていっている。車輪や硬貨などが姿を消していっているので文明が衰退していっている。

 しかし、それでも人々は円を見ると笑わずにはいられない。手元に保管してある硬貨などを見つめながら笑い続けている。或いは、満月が出ると夜空を見上げながら笑い続けている。社会は確実に荒廃してきているが、笑いたいという気持ちを抑えられなくなった人間の数はむしろ増加してきている。空腹になって体力が尽きようとする間際になっても彼等の目は円に向けられている。


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