眠らなくなっている | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 数年前から眠らなくなっている。しかし、その影響によって気分が悪くなるなどといった事態にはならず、私は淡々と日常生活を送っている。それは私個人に起こった変化ではなく、成人した人類の大半が睡眠を取らなくなっている。人類がそのように進化したらしいと科学者達は言っている。

 眠らなくなった当初は夜間が退屈だった。自宅に籠って本を読んだり、ラジオに耳を傾けたりしてみても時間がなかなか潰れなかった。一日があまりにも長いと感じられていた。それで、夜の街を散歩する癖が身に付いたのだが、そこで現在の妻と出会った。なにしろ当時は暇を持て余した人間がたくさん夜道を徘徊していたのである。

 最初は互いの正体も知らないまま適当に世間話などをしていたのだが、そうしている間に関係が深まってきて彼女が妊娠したので私達は結婚した。そして、彼女は男の子を産んだ。

 今、私達は夜の街を出歩かなくなっている。人類の文化が新しい進化に対応していき、自宅に籠っていても退屈しない方法が色々と編み出されたのである。それで、私達夫婦は息子が睡眠している間は自宅に待機している。息子がかなり達者に言葉を話せるようになってきたので私達は朝になる度にどのような夢を見たのかと問い掛けている。夢という奇想天外な体験を毎晩のように味わっている息子を私は羨ましいと感じている。


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