猿になる | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「あなたには雨に打たれると猿になる呪いを掛けておきました」と魔女が言った。

 それ以来、私はどこに出掛ける際にも傘を持ち歩いている。それに、なるべく雨の日には外出しないように心掛けている。猿にはなりたくないのである。

 どうしても降雨時に屋外を歩かなければならなくなった場合には傘の下で身を小さく縮めている。ただ、それでも風などが吹いていると雨を完全には防げない。足や腕などに雨粒が当たると私は全身に鳥肌が立つように感じ、金切り声を張り上げたくなる。服も傘も放り出して本能のままに路上を走り回ってみたくなる。しかし、人間としての理性を保っていたいので傘の柄を強く握りながら自分の胸中に生じた衝動を抑え込む。

 今までに一度も完全に猿になった経験はない。ただし、徐々に体毛が濃くなってきている。顔立ちも猿に近付いてきているようである。あと何度か雨粒に当たれば理性を保っていられなくなるかもしれない。おそらく私はいずれ確実に猿になるのだろう。その予想に対する抵抗感も薄まってきている。


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