催眠術師のレストラン | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「どうですか?舌は大きくなりましたか?」と催眠術師が問い掛けてきた。

 その質問を受けて私は舌を動かしてみた。すると、口内で巨大な物体がのたうち回ったので驚かされた。顎が外れるのではないかと心配になったが、重くはなかった。それに、口が塞がって呼吸ができなくなるという事態も起こらなかった。しかし、私は自分の舌がレストランよりも大きくなったように感じていた。どうやら催眠が成功したようだったが、言葉を発音できそうにないので私は首を頷かせた。

 すると、催眠術師は口元に笑みを浮かべた。「そうですか。それでは、ごゆるりと当店自慢の料理をご賞味くださいませ」

 そう言い残して催眠術師は他の客達の席へと立ち去った。その後ろ姿を見送ってから私はテーブルの上に置かれている肉料理に手を伸ばした。それを口に入れると舌の広大な面積から送られてくる夥しい量の味覚情報に圧倒され、全身に電流が走り抜けるような衝撃を受けた。一瞬毎に美味しさが深まっていき、時間の流れまでもが遅くなっていくような錯覚を感じた。

 そして、一切れの肉をじっくりと味わい尽くした後、私は放心状態に陥って食事を続けられなくなった。猛烈な疲労感に襲われて何も考えられなくなっていた。

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