催眠術師は言った。「このガラス玉があなたの子供ですよ」
それ以来、私はそのガラス玉を常に肌身離さず持ち歩くようになっている。私はそれを自分の子供であると考えているわけではない。しかし、心のどこかでは催眠術が効力を発揮しているらしい。時々、ガラス玉が泣き声を発しているような気がして心が落ち着かなくなる。どうにか宥めて泣き止まさせなければならないと思う。
ガラス玉は布巾などで磨くと機嫌が良くなるようである。それで、私は暇さえあればガラス玉を磨いている。そして、ガラス玉は磨けば磨くだけ透明度が増していくようである。それに連れて愛着が湧いてくるようである。
催眠を掛けられてから数年が経っているのだが、私のガラス玉は今では肉眼ではほとんど視認できないくらい透き通っている。私はそのガラス玉をどこにでも持ち歩いて磨いている。
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目次(超短編小説)