哀しみを受け止められない | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「あなたには哀しみを受け止められなくなる呪いを掛けておきました」と魔女が言った。

 それ以来、私は哀しみを感じる度に体調を崩すようになっている。身内に不幸があった時には昏倒して病院に担ぎ込まれたので葬式に出席できなかった。しかも、故人について回顧するだけで嘔吐感を催す始末なので未だに墓参りにも行けていない。

 自分にこのような呪いを掛けた魔女に対して私は激しい憤りを感じている。どうにか解除してもらいたいと思っているのだが、あれから彼女の消息は杳として知れない。仕方がないので私はこの呪いと上手に付き合って生きていく方法を模索している。なにしろ気持ちを滅入らせているだけで体調を崩すのである。健康を維持しようと思えば前向きに対策を練らなければならない。

 とりあえず私は哀しみを感じそうになる度に喚き散らしている。憤怒という感情で哀しみを誤魔化そうと試みている。気持ちが晴れるまで魔女に対する悪口を延々と並べていく。すっかり怒りっぽくなったので周りの人々から敬遠されているようだが、健康を維持する為ならば孤独にも耐えるつもりである。

 それに、大声で罵っていれば魔女が再び現れるのではないかと期待している。そうなれば呪いを解除してもらえるように頼み込みたいと思っている。私は哀しみをしっかりと受け止められる人間になりたいと望んでいる。


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