夜明け前の来訪者 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 マンションの玄関でインターホンが鳴らされたので目を醒めた。真夜中に近所迷惑な真似をすると憤りながらも私は布団から抜け出して玄関に行った。すると、ドアの向こう側に友人が立っていた。「もうすぐ夜が明けそうだから早く金を貸してくれ」と彼は言った。

 「夜が明ける」という理由と「金を貸す」という要請が頭の中で論理的に結び付かないので私は釈然としない気分になった。しかし、寝惚けていて質問を投げ掛けるだけの意欲が湧いてこなかったので「早く」という催促に促されるまま、「財布を持ってくるから」とだけ言い残して寝室に引き返した。

 しかし、寝室に戻ってみると枕元に置いていたはずの財布がなかった。不審に感じながら私は他の場所も探してみた。机の引き出しを開け、衣服のポケットに手を突っ込み、布団を捲ってみた。それでも現金は見つからなかった。そして、元から雑然としていた室内がさらに散らかっていった。

 やがて夜が明けてきたらしく、カーテン越しに窓から朝日が差し込んできた。友人の期待に応えられなかったので私は申し訳なくなった。財布がなかった旨を報告しようと肩を落としながら玄関に向かったのだが、既に友人の姿はそこになかった。マンションの通路はがらんとしていて誰もいなくなっていた。

目次(超短編小説)