怪しい来訪者 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 電車の中から窓の外を流れていく景色を眺めていた。いつも以上に仕事が忙しかったので私はくたびれていた。夕食を取っていなかったが、腹はまるで減っていなかった。仕事の終了と同時に張り詰めていた緊張の糸がぷっつりと切れたらしくて今は気怠さ以外に感じるものがなかった。

 見慣れた夜景の中に明るい窓が幾つも見えていた。ふと、私はそれらの窓のどれかに帰還したいという願望を抱いた。そこには誰かの帰宅を待っている人がいるのだろう、と想像した。自分がその誰かになってみたい、と思った。

 しかし、すぐに私はその妄想が無謀であると気が付いた。もし自宅で夕食を取っている最中に見知らぬ他人が家に侵入してきたら誰もおそらく歓迎しないはずだった。その怪しい来訪者を拒絶して追い返すのに違いなかった。私は自分がその来訪者を迎える側に立った場合の状況を想像し、背筋が寒くなるように感じた。

 周囲に視線を走らせると他の乗客達の中にも私と同様に窓の外に目を向けている人々がいた。これから他人の家に帰還しようとしているのかもしれないと思うと彼等の風体が悉く胡乱なものに見えた。

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