清々しくない顔 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 朝、私は駅から会社のビルに向かって歩いていた。昨日まで降り続いていた雨は既に上がっていて空は晴れ渡っていた。濡れている地面に陽光が反射するので私は目が眩むように感じていた。

 いつになく清々しい気分だった。私は一点の曇りもない正しい道を歩いているという力強い自信を感じていた。これから出社して顧客達に下げたくもない頭を下げなければならない境遇に置かれているとは思われないような小気味良い心境だった。私は道路の中央に仁王立ちして高笑いをしたいような衝動に駆られていた。

 会社のビルは朝日を受けて窓ガラスが輝いているように見えた。会長が玄関先で箒と塵取りを持って掃除をしていた。私がいつもよりも大きな声を出して挨拶をすると驚いて怪訝な表情を浮かべた。まったく清々しくない顔色だった。きっと心の中に疚しさがあるのだろうと思った。その顔を見ていたくないので私は速やかに扉を開けてビルに入った。

 同僚達に一人ずつ大きな声を出して挨拶していった。悉く清々しくない顔色だった。まるで悪の結社のようだと思われた。自分が入社した当時と比較すると社員の数が随分と増えていたが、このまま組織が成長し続けて善いのだろうかという疑念が脳裏を掠めた。

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