死なない時代 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 死なない時代になってから世の中が物騒になったと思いませんか?今日も通勤途中にいきなり背後から誰かにナイフで突かれましたよ。大きな刃物が深々と脇腹に突き刺さっていたんですよ。

 ええ。もちろん痛かったですよ。でも、ナイフで刺された程度の傷なんて数分もあれば完治しますよ。痛みもすぐに消えますよ。それはそれでいいんですけどね。でも、服が血で汚れて穴が開いたんですよ。腹が立つじゃありませんか。立派な犯罪でしょう?それで、出社前に警察署に駆け込んだんですよ。

 しかし、死なない時代になってから警察も弛んでいますね。一応、話は聞いてくれたんですがね、どうも署内の空気に緊張感がありません。きっと殺人がなくなった影響でしょうね。しかし、こちらには服の穴という実害があるのだから捜査はしっかりと行ってもらいたいものです。

 まあ、それはいいんですがね。警察で色々と手続きを済ませましてから出社したんですが、もちろん大遅刻ですよ。それで、上司にこっぴどく叱られました。一昔前ならナイフで突かれたら死んでいたかもしれないんですよ。それが今は遅刻の理由にもならない。つくづく大変な世の中になったものだなと実感しましたよ。

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