いつ夢は醒めるのか? | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 本来であれば休日のはずだったのだが、仕事上の都合で急遽いつもよりも早い時刻に出勤しなければならない羽目になったので私は眠い目を擦りながら起床し、駅で電車に乗り込んだ。

 車内は乗客が少なくて幾つも空席があったが、私は普段の習慣を崩したくないので立ったまま乗車していた。窓の外を流れていく景色はいつもと変わりなかったが、予定にない行動を取っているせいで気持ちが落ち着かなくなっていた。

 幾つかの駅を通過し、私は尿意を催した。とても会社の最寄り駅まで我慢できそうにないので仕方なく中途の駅で下車した。過去に何度か利用した経験があるのでトイレの位置は把握していた。

 そして、便器の前に立って股間のジッパーを開くと正面の壁に落書きを見つけた。『いつ夢は醒めるのか?』と書かれていた。その質問を読んで私は躊躇した。もし自分が夢を見ている最中だと仮定した場合、尿を出すと布団の中でお漏らしする羽目になるのではないか、という考えが脳裏を過ったのだった。それで、私はしばらく便器の前に立ったまま逡巡した。自分が睡眠中ではないという確信をなかなか持てなかった。

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