真珠が香る | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 自宅の階段を上っていて下腹部に異物感があると気付いた。直ちに足を止めて片手でそこを摩ってみると丸く膨らんでいる。何らかの物体が入っている模様である。

 咄嗟に記憶を探ってみるが、排便は昨日の夜に済ませたばかりである。シャツを捲り上げて腹部の蓋を開口させると、果たして排泄袋はまだ満杯にはなっていない。それどころか、かなりの余裕がある。しかも、丸い膨らみは腹部のもっと下側にある。その位置の蓋は滅多に開閉させる機会がないので何が入っているのか咄嗟には思い出せなかったが、気になって仕方がないので私はすぐさま中身を調べてみた。

 すると、拳程の大きさの球体が見つかった。純白だが、虹色の光沢がある。それを見て私は体内で真珠を養殖していた事実を思い出す。数ヶ月前に新しい肉体を購入した際に店側の好意でそのような機能が無料で付加されたのである。それが忘れていた間にこんなにも立派に成長していたのだという事実に接して驚かされるのと同時に嬉しい気分になる。

 真珠は表面が滑らかであり、体液によって濡れている。掴もうとしたが、手に着かなかった。上り方向なので落差は小さかったが、頼りない音を立てて呆気なく割れた。まだ真珠は未成熟で脆弱だったのかもしれなかった。粉々に砕け、階段に細かな破片が散乱した。その様を見て、浮かれていた気持ちが一気に萎えた。

 しばらく意気消沈して茫然としていると、美味しそうな臭いが辺りに充満した。そして、喪失感が食欲を強く後押しした。私は破片を踏まないように注意しながら階段を下りていく。掃除しなければならないし、その前に台所へ行って食料を探したい。腹を満たして気持ちを切り替えたいと考えている。

目次(超短編小説)