腹の中で | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 真夏の炎天下を歩いていく。遠くの空に白い入道雲が高々と聳えているが、それは今のところ頭上に接近してくる気配がないし、太陽を隠そうともしていない。周辺がとても蒸し暑いので大量の汗が噴き出してくる。蝉の鳴き声が騒々しい。

 私は自分を取り囲む環境が鬱陶しくて仕方がない。不快なので逃げ出したい気持ちだが、走って無駄に体力を消耗したくないので淡々と歩いていく。そもそも逃げ場所がない。

 まるで巨大生物の体内に閉じ込められているかのように、この季節は世界自体が不快な湿気と熱を帯びている。太陽光線が強いので肌がちくちくと痛む。巨大生物が激辛料理でも食べたのかもしれない。肉体が融解して少しずつ消化されていくのではないか、と心配になる。

 空の様子をちらちらと窺いながら、雨が降ってほしいと望んでいる。巨大生物が水を飲まないものかと待ちわびている。そういえば、最近、まとまった降雨がない。いつ以来だろうか。嵐があった夜からだろうか。あの時は洪水になって大変だった。風も強くて怪物の咆哮のような轟音が屋外に響いていた。何が原因かは知る由もないが、巨大生物が荒ぶっていたようだ。あれ以来、巨大生物は大人しい。喉も渇かないらしい。しかし、死んだわけではない。依然として体温は高い。まだ、しばらくは死にそうにない。うんざりとしてくる。死ねばいい、と思う。

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