新天地へ | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 目が醒めてみると気分が優れない。間怠っこしいような遅々とした速度で意識がまったりと容器の底へと沈み込んでいくような感覚がある。息苦しい。周囲の液体が生温い。衣服の内側にまで侵入してくる。不快で鬱陶しい。私は手足を動かして浮上を試みる。とにもかくにも水面から顔を出したい。涼しい空気を吸いたい。「助けてくれ。」と言いたい。絶叫したい。しかし、思うようには上昇できない。もがく。もどかしい。声が出ない。焦燥感が募っていく。周囲の液体が粘着力を増してきているように感じられる。四肢の自由が奪われていく。事態は好転せず、むしろ悪化の一途を辿っているような気がしている。

 そうこうしている内に容器自体の大きさが狭まってきたように感じられる。肘や背中などに壁が当たる。窮屈で仕方がない。私の肉体が巨大化したのだろうか?容器から液体が溢れ出しているような音が聞こえてくる。しかし、一向に水面は見えてこない。もはや少しも身動きが取れない。肉体が容器の硬い内壁に押し付けられている。缶詰の中みたいに出口がない。苦しい。自分の肉体によって圧死させられるのかもしれない。私はその運命への抵抗を必死に試みるが、容器は壊れない。骨格の方が先に壊されそうな気配である。

 ふと、容器内に強い衝撃が走り、轟音と共に壁が破れる。大きく開いた穴から液体と一緒に私の肉体も外の世界に出る。そこは緑豊かな草原である。故郷の惑星によく似た風景が完成されている。私は立ち上がり、新天地の爽やかな空気を思い切り吸い込む。そして、足元の草を片手で毟り取り、口に入れる。あまり美味ではないが、舌の上で毒素がないと分析してから飲み込む。そうして空腹を満たすと今度は散歩に出掛ける。おそらく数体の仲間がこの近辺に着陸したはずである。私は頭部から信号を発信し、応答を待つ。長旅のせいで足の筋力が衰えている。頻繁に休憩と食事を挟みながら歩いていく。

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