卵の殻 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 どこかで卵の殻が穿たれたらしい。その瞬間の決定的な破壊音は聞き逃したが、耳を澄ませば確かに穴から大量の空気が流れ込んでくる音が聞こえてくる。

 ほんの数日前まで世界は閉じられていて私は他の人々と一緒に冷たい沼の底で沈滞したまま淡々と歳を重ねていくだけであったが、今では真新しい局面の到来を察知して胸が躍っている。排出される空気があれば入れ替わりに吹き込んでくる風もある。白濁していた水が徐々に透き通っていく。しかし、まだ世界は安定していない。大気がざわめいている。

 少なくとも私は愉快な気分だ。信じられないくらいの高揚感だ。卵の殻に穴が開けられたのだ。外部から差し込む光は私の周囲を明るく照らし、さらに広大な世界の存在を示唆してくれている。

 より素晴らしい点は大勢の人々が同じ認識を共有しているという事実だ。まだ全容を把握できないので戸惑っているが、だからこそ希望が際限もなく膨らんでいく。何事かが開始されたのだ。我々は確実に新しい空気を吸っているのだ。途轍もなく爽快な気分だ。

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