寝室で感情玉と戯れる。
口から吐き出した大小の彩り豊かなシャボンが空中を漂い、弾けて消える度に淡い匂いと共に様々な気分が胸中に去来する。私は楽しさや悲しさなどを思い出していく。前後の脈略はない。室内には美しいシャボンが幾つも割れる瞬間を待ちながら浮遊している。頻繁に破裂するものだから気持ちがなかなか定まらず、一つずつの感情をゆっくりと吟味していく暇がない。初恋の切なさに心酔していたところへ駄作の映画を鑑賞させられた時の失望が割り込んでくる。感情玉の匂いは気持ちだけではなく、記憶までもを想起させる効果がある。
私はベッドに寝転びながら残ったシャボンを数えている。ちょっと多めに吐き出しすぎたかもしれないと反省している。今はもう新たな追加はせずに徐々に減少していく様子を静かに見守っている。
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