夏空の白布 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 一枚の白い布切れがひらひらと夏空に浮遊していて、強風が吹いているわけではないのに、まるで重力の影響を受けていない物質であるかのように、いつまでも地面に落下してこない。しかし、空中の一点に位置が固定されているわけではない。ゆっくりと移動を続けていて、たまに地表すれすれの高度まで下がってきたりする。その白布は常に青空の下にあり、太陽の光を受けて爽やかに輝いている。どうやら雲を避けるように移動している様子である。雨を嫌っているのかもしれない。

 真夏の強烈な陽光で頭部を熱せられた影響か、そのような非現実的な物体が妄想として脳内視野に生じてくるのであるが、私は大粒の汗を垂れ流しながら道を歩いていくという行為にほとほと嫌気が差し、片手で額を拭いながら空を見上げる。そこには一つの雲もない。もちろん、白布も見当たらない。太陽を直視しそうになって思わず顔を背ける。白布は雨を嫌っているかもしれないが、私は夕立になってほしいと願っている。一雨あれば確実に気温が低下するはずなのである。

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