飛んでいる | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 旅行中、電車の窓から外の景色を見遣ると青空のあまり高くない所を一機の白い飛行機がこちらと並走するようにして飛んでいた。私はその巨大な機体を近くから拝見した経験が今までに数える程しかなく、また、旅先でこのような場面に遭遇できるとは想定していなかったので、まるで途轍もない幸運に恵まれたかのように直観して頬が綻び、反射的に座席から腰を浮かせた。しかし、付近に飛行場があるのならば他の乗客達にとってはまったく見慣れた日常的な光景のはずであり、であるならば自分だけが無邪気にはしゃぐのは格好が悪いと思われたので私は周囲に素早く目線を走らせながら座り直した。

 ところが、他の乗客達は呆気に取られたような表情で窓の外を見つめていた。彼等の面持ちは明らかに飛行機の存在に対する驚嘆を物語っていた。誰かが「飛んでいる。飛んでいる」と発言する声が聞こえ、それをきっかけとして車両の中に異様なざわめきと緊迫感が広がっていった。よく見ると飛行機は姿勢がかなり不安定で、腹部をこちらに見せたりしていた。
 
 飛行機はしばらくして墜落した。電車に乗っていたので私自身は気にならなかったが、後から聞いた情報によると現場からかなりの広範囲に渡って破片と衝撃波による被害が出たという事だった。私は無人駅の小さなホームに降り立ち、彼方に上る黒煙を見つめた。まったく悲惨で痛ましい事故であった。

目次(超短編小説)