青空と海面 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 列車が予定の時刻を過ぎても到着しないのでプラットホームに佇みながら当惑する。田舎の寂れた駅舎であり、私以外にはほんの数人しか待っている人間の姿がない。遅れるのであれば場内にアナウンスがあっても良さそうなものだが、どうも無人駅であるようで、先程から一度も駅員の姿を見掛けていない。

 旅先の慣れない土地でこのような不慮の事態に陥ったので、私はしばらく手持ち無沙汰で線路の先を眺めてみたり、時刻表を再確認してみたりといった行動を繰り返していたのだが、いつまで経っても列車が現れないのでベンチに腰掛けて焦れる気持ちを落ち着かせる事にした。
 
 そうすると、プラットホームをうろうろと世話しなく歩き回っていた時よりも周辺の景色をずっとよく観察できるような気がした。駅が海沿いにあるので水平線の彼方まで遠望できるのだが、先程までは視界に入っていても気に掛けていなかったのだった。まだ暑い季節ではなく、風はむしろ肌寒かったが、波は穏やかであり、海面は陽光に照らされて輝いていた。そして、その上方には雲一つない青空があった。ここまで単純な構成の景色は私が普段暮らしている内陸部の街ではなかなか見られるものではないので割と素直に心が打たれた。波や光が微細に振動している以外はまるで時間が停止したかのように変化がなかった。

 水平線を眺め続けている内に私は気持ちが心地良く寛いでいくように感じた。むしろ、この瞬間に列車が到着すれば気落ちするのではないかとさえ思われた。しかし、私の目線はちらちらと相変わらず線路の先にも配られていて、その眼球運動を意識すると胸中に軽い自己嫌悪が生じ、途端にげんなりとした気持ちにならされた。

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