獣達の儀式 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 獣達が手を取り合い、大挙して丘を駆け上っていく。森林は深い暗闇に沈み込んでいるが、獣達は夜目が利くので木々の合間を縫うように数珠繋ぎになって問題なく擦り抜けていく。お互いの手を結んでいるので半身の姿勢になっているが、それでも足腰の筋力が強靭なので体のバランスはほとんど崩れない。かなりの速度で一気に傾斜を上っていく。走りながら彼等は爛々とよく輝く眼を頭上の満月に向ける。口元には鋭い牙が覗いている。荒々しく息を弾ませている。
 
 総勢、数十体といったところだろうか。丘の頂上に辿り着くとお互いの肉体を激しく衝突させ合う。毛深い肉体が月光に照らされて黒々と光る。群れ全体が一個の巨大な塊のような様相を呈していき、その中から唸り声や嗚咽などが聞こえ始める。周辺には肉食獣特有の体臭が濃厚に漂う。彼等は互いに容赦なく傷付け合う。もはや体力が尽き果てて身動きが取れなくなった個体も散見される。体毛に血液が交じり、月光による光沢が増していく。獣達は次々と倒れていく。失神し、踏み付けられる。圧迫され、命を失う。
 
 そもそも、この丘は獣達の何世代にも渡る屍の堆積によって形成されたのであり、彼等にとっては極めて重要な場所なのである。彼等はこの広大な森林地帯における生態系の頂点に君臨する種族であるが、知能が高くない割には誇り高い精神性を有しているらしく、神聖な丘以外の場所に自分達の屍骸を曝す事態を極端に忌み嫌うという習性を備えているのだった。

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