旅人との再会 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 夜になって来客あり。普段は滅多に訪れる人間がいないので私は戸惑いを覚える。玄関に出ると昔の友人が立っている。一時期はかなり頻繁に顔を合わせていたのだが、最近は疎遠になっていたので懐かしいというよりも驚きを強く抱く。

 既に私は夕食を済ませていたが、誘われるままに近所の居酒屋へと足を運ぶ。向かい合わせの席に座って酒を呑み交わしながら互いの近況を報告し合う。彼が宇宙旅行に出掛けていたという事実を知る。それどころか、今も旅行中であるらしい。そういえば、彼と交友関係を持っていた当時は私も今とは違う惑星で暮らしていたのである。遠い過去の記憶なので頭の中で物事の順逆などが曖昧になっている。その惑星の風景も今となってはなかなか鮮明には思い出せない。彼はまだ自宅がそこにあって故郷のような認識でいるのだろうが、私にとっては既に過去の一時期に身を寄せていたというだけの価値しかない場所になり下がっているのである。

 酒の勢いもあって会話はあまり途切れる事もなく進行していく。元々からして気心が通じ合う人間同士なのだろう。風景は記憶に留まっていなかったが、彼の声や話し方などは確かに昔のままであると思う。彼の口から旅行中に見聞きした様々な惑星の風土などを説明されると自分もそこを歩いてきたような気がしてくる。いつまでも話を聞いていたいという気持ちにならされる。彼の旅行も当分は終わらないのだろうと予想する。私がそうした感想を漏らすと彼も首肯する。まだまだ宇宙は広いので行ってみたい土地は一杯あるらしい。

 ただ、旅先で私と出会った事によって一時的に故郷が懐かしいという気持ちにもなっているらしい。やはり彼の郷愁はあの惑星を対象にして駆り立てられているようである。酔いが回るに連れて彼はしきりに一人旅の寂しさを強調してくる。この再会が原因になって孤独を自覚したような格好になっているので私としては肩身が狭いような気がしてくる。しかし、私はわざと鈍感な態度を取って酒を呑み続ける。旅先で見掛けた珍しい情景に関する話題に戻るようにと誘導を試みる。その方がずっと興味深いように思われている。

 居酒屋から出ると頭上に無数の星々が瞬いている。我々はまたどこかで再会しようと誓い合う。

目次(超短編小説)