鉱物談義 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 昔、さる友人と一緒に川釣りに出掛けた事がある。私の趣味ではないから彼の方から誘ってきたのだろう。我々は清流のほとりに腰を落ち着け、長い竿を並べた。よく晴れていたが、そこは鬱蒼とした森に挟まれた川の上流であったので木陰に入ると幾らか暑さが凌ぎ易かった。せせらぎや鳥のさえずりなどが聞こえてくる他は静かな場所であり、私達以外には人影がなかった。釣果については記憶が定かではないのだが、おそらく芳しくなかったように思う。
 
 我々は浮きを眺めながら和やかに談笑していたのだが、やがて彼が向こう岸にある巨大な岩を称讃し始めた。どういう流れでそのような話題に至ったのか今となっては不明だが、しきりにその堂々とした佇まいを誉め出したのである。彼の主張によると、その岩くらいの大きさになると自分を石とは呼ばせないだけの風格が出てくるという点が素晴らしいのだそうだった。他にも色調や形状などに関しても称讃の言葉は及んだが、どうも共感できなかったので私は会話の中でその岩を石と呼ぶ事にした。すると、彼はその発言を咎めてきたが、私はそれへの反論として、かつて他の惑星で観賞した石像はもっと巨大だったという話や、宇宙空間に行けば桁外れに大きな鉱物が自重で内部がマグマ化する寸前の状態で漂っているという話を聞かせてやった。それらと比較すれば川岸の岩など石ころ同然であると主張したのだった。
 
 その意見に対して彼はあからさまに不機嫌な顔色になったが、反論はろくにできなかったような気がする。ただ、その議論をきっかけとして彼との関係がしだいに疎遠になっていったような印象がある。あの時はなぜあんなにもムキになって彼の称讃を否定しようと努めたのだろうか?我が事ながら今となっては意味不明である。実際、私は普段から鉱物などに特別な関心を寄せていたわけではなかったし、それは彼にしても同様だったはずだ。では、なぜ他の惑星で巨大な石像を観賞しただの、宇宙空間で桁外れに大きな鉱物を目撃しただのといった嘘まで交えながら自分の意見を強固に主張したのだろう?あの議論はなぜあそこまで白熱し、後日にまで影響が尾を引いたのだろう?ひょっとして彼は私の偽りを論破できないまでも見抜いていたのだろうか?そのせいで私という人間を見限ったのであろうか?そのように考えると悲しくて自責の念にも苛まれるが、今のところ、それが最も腑に落ちる可能性であるような気がしている。

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